Month: June 2013

「C-magazine」2013年夏号

「C-magazine」2013年夏号キヤノンマーケティングジャパングループ発行のPR誌「C-magazine」2013年夏号に掲載された特集企画の中で、「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの青木耕平さんと河野武さんの対談記事などを取材・執筆しました。リンク先のページからPDFで読むこともできます。

マタルの味

実家から送られてきた野菜の中にグリーンピースが入っていたので、それを使って豆ごはんを作ることにした。

米をいつもより若干少なめにして、いつもの量の水を入れ、酒と塩を少し。ごはん鍋を火にかけて、沸騰してきたらグリーンピースを投入し、蓋をして弱火で炊き、蒸らせばできあがり。

グリーンピースはインドでは「マタル」と呼ばれていて、ジャガイモとグリーンピースのカレー(アルー・マタル)など、インド料理ではよく使われる野菜だ。インドの中でも一番上等なマタルは、スピティ産のものだと言われている。標高四千メートルに達する高地の村々で栽培されるマタルは、畑でもいでさやから取り出し、生のまま頬張っても、まるで果物のように甘い。去年の夏、スピティの村から村へと歩いて旅していた時、収穫に精を出す村人たちが、もぎたてのマタルをよく手づかみで分けてくれたっけ。

僕にとっては懐かしい、マタルの味。もうすぐ、またあそこで味わえるかな。

届くべき人のところへ

この間観た映画「きっと、うまくいく」(3 Idiots)が、本当に大ヒットになっているらしい。一週目より二週目、そしてさらに三週目も動員数を伸ばしているそうで、上映館も大幅に増加。その影響で、映画のクライマックスが撮影された舞台のラダックに興味を持つ人も出てきているのか、「ラダックの風息」はアマゾンで補充が追いつかずに一時在庫切れ。「ラダック ザンスカール トラベルガイド」も在庫僅少な状態がずっと続いている。

今回のブームがどのくらい続くのかはわからないけれど、それに一喜一憂したりはしない。ただ、この二冊は、周りから「ラダック? 知らない」だの「そんなの誰も読まない」だの言われようと、自分が「これでいいんだ」と信じて、コツコツと作り上げた本だ。何十万冊もバカ売れするような本ではないけれど、たとえば今回の映画のようなきっかけでラダックに興味を持つ人が新たに現れたら、この二冊は、何かしらの役に立つかもしれない。ほんの少しだけ、その人の人生を動かすかもしれない。

信念を曲げずに、心を込めて本を作れば、いつか、届くべき人のところへ届く。そういう手応えを感じられることが、何より嬉しい。

積み重ねたもの

梅雨入りしたとは思えないほど、爽やかな午後。吉祥寺界隈をぶらぶら散歩し、夜、リトスタへ。

リトスタは、昨日の六月一日で九周年。昨夜はさぞや混雑しただろうと思っていたら、常連さんたちは同じような予測をして牽制し合ったらしく(笑)、むしろ今日の方が混んでいて、開店直後からほぼ満席。合鴨スモークとフルーツのサラダ、手羽元とジャガイモのスープごはんなど、たらふくいただく。

自分でレストランやカフェをやってみたいと考えてる人は、世の中にたくさんいると思う。たぶん、お店をオープンするだけなら、本気でやろうと決意すればかなりの数の人が実現できる。でも、それを続けていくことは本当に難しい。リトスタがオープンしてから九年間、同じ商店街で、どれだけ多くの店が開店と閉店をくりかえしたことか。

リトスタが歩んできたこの九年間も、大変な苦労の連続だったと聞いている。日々のやらなければならない仕事と、こうすればもっとよくなるんじゃないかという工夫の、地道で丹念な積み重ね。僕らが何気なくすする一杯のコーヒーにも、淹れ方からお客さんへの出し方まで、彼らが積み重ねたものがたくさん籠っている。

九周年、おめでとう。次は十周年記念ライブで(笑)。