仕事が一時的に落ち着いて、天気もそこまで暑くならなさそうだったので、陣馬山から高尾山までの縦走に出かけた。
日帰り山歩きに出かけるのは、五月に丹沢表尾根縦走をしてきて以来だから、およそ四カ月ぶり。なにせ、今年の夏は六月くらいから、めちゃめちゃ暑くなってしまったので……。山歩きや自転車はもちろん、近所をちょっと出歩くのも暑すぎて、歩行距離が全然稼げなかったから、脚力がどれくらい落ちているか、ちと心配なところではあった。
ここしばらく、尋常でなく暑い日々が続いている。
午前中に、食材の買い出しに駅前のスーパーまで行くのに、歩いて五分くらいの道程なのだが、マンションの外に出て十歩も歩かないうちに、もう無理、という気分になる。Tシャツを突き抜けてくる、日射しの熱。路面のアスファルトは、ホットプレートの鉄板のごとし。四方八方から吹き寄せてくる、クーラーの排熱。日向を歩いてるだけで、息苦しくなり、動悸が早まる。なんだこれ。はちゃめちゃだ。酷暑期のデリーよりもきつい。
自宅の部屋でも、朝から晩までほぼずっと、クーラーをかけっぱなしにしておかないと、とてもじゃないが耐えられない。電気代がどうこうとか言ってられない。
こんな、ぐつぐつ煮えたぎるような夏の日々が、あと二カ月近くも続くのか……。自分は途中、三週間ほどラダックに行くのだが、仕事とはいえ、何だか家族に申し訳ない。それにしても、しんどい。
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呉明益『複眼人』読了。序盤で語られるワヨワヨ島のファンタジックな設定が興味深くて、物語にどう関わってくるのかと思っていたのだが、何というか、壮大なスケールに膨らんだ話を、上手く畳み切れなかった印象。まったく予想のつかない展開は面白かったし、明示と暗示を含め、自然と人との関わりについてのさまざまな示唆に富んでもいたけれど。
先週、謎の体調不良に見舞われた。3日間ほど、ずっと発熱していたのだ。
熱が出たとか、いつ以来だろう? すぐには思い出せないくらいのひさしぶりの事態。喉が痛いわけでも、鼻水が出るわけでもなく、寒気もなければ、頭痛もまったくない。ただ、何となく身体全体がほんのり熱っぽい状態で、体温計で測ってみたら37、8度を行ったり来たり。解熱剤をキメればいったん下がるが、何時間か経つとまた上がる、といった具合。
おそらく、先週は急に阿呆みたいに暑くなったので、身体が温度変化に対応できず、夜寝てるうちに、軽い熱中症のような症状になってしまったのではないかと思う。幸い、食欲は普通にあったので、部屋の冷房をしっかり効かせて、水分と栄養補給を心がけつつ、デスクワークの合間にできるだけ昼寝などして休養に努めたところ、週末にはすっかり回復した。やれやれ。
しかしまあ、酷暑期のインドでもならなかった熱中症に、東京の自分ちでなってしまうとは……。みなさんもお気をつけください。
昼少し前、食材の買い出しに行くため、マンションから外に出て、傘をさして歩き出す。雨とも霧ともつかない、細かな水滴が宙を舞っている。近所の家の生垣で、しっとりと潤った緑の葉。紫陽花も、淡い色の花弁を生き生きと広げている。
ああ、梅雨に入ったんだなあ、と思った。
実際、関東地方は、今日から梅雨入りしたそうだ。ニュースなどで知らされる梅雨入りと、季節の境目として体感した梅雨入りが一致したのは、いつ以来だろうか。毎年のように、やたら暑かったり寒かったり、大雨だったり小雨だったりで、異常気象という言葉を聞かされ続けていたから、ごく普通の形で季節が移ろっていくと、かえって少し戸惑ってしまう。
いずれにせよ、これからしばらくは、洗濯物を干すタイミングに悩まされそうだ。
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F・スコット・フィッツジェラルド『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』読了。若くして作家として華々しくデビューし、『グレート・ギャツビー』という不朽の名作を残したフィッツジェラルドは、1930年代に入ると、妻の病や世界恐慌、自身のアルコール中毒などで、不遇の時代を過ごすようになる。すべてを賭けた渾身の力作『夜はやさし』も、発表当初はほぼ見向きもされなかった。この短編集では、その頃の彼の心情を、いくばくか読み取ることができる。短編も秀逸だが、後半に収録された「私の失われた都市」や「壊れる」三部作などのエッセイが、寂しくも美しい。
「そして魂の漆黒の暗闇にあっては、来る日も来る日も時刻は常に午前三時なのだ。」
自身の絶望を、こんな言葉で綴ることができる人を、僕はほかに知らない。
今日は平日休みにして、陣馬山から高尾山までの縦走に出かけた。もともと、三月のうちに行こうと思ってたのだが、急に雪が降った関係で順延となり、ここ最近も変わりやすい空模様が続いているので、比較的天気が安定してそうな今日に、山行の予定をねじ込んだ次第。
山歩きは、二月下旬に高水三山を歩いて以来。あの頃に比べると、ずいぶん暖かくなった。陣馬山の山頂に着いた後、上着を脱いで長袖Tシャツだけになったのだが、高尾山から下りに入るまで、それでちょうどよいくらいだった。
春霞のせいで、そこまでくっきりとは見えなかったが、富士山も。見えると、やっぱりちょっとだけ気分がアガる。
城山から高尾山にかけての尾根筋のところどころで、桜が咲いていた。平地の公園とかで見かける桜と少し違って、どことなく野生味のある桜。考えてみたら、桜の季節に高尾山に来たのは、初めてだったかもしれない。思いがけない僥倖。
約一カ月半ぶりの山行だったが、身体はそれほどなまってもおらず、すいすい楽に歩けた。真夏の暑い時期とかは無理だけど、今後も月イチペースくらいで日帰り山歩きに行くようにすれば、足腰のコンディションも維持しやすくなるのかな、と思う。次はどこにするかな。ひさしぶりに、丹沢表尾根縦走に行ってみるか。