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二人で生きる

長年住み慣れた三鷹から西荻窪に引っ越してきて、二カ月半ほど経った。引っ越して十日も経たないうちにラダックとアラスカに出かけてしまったので(苦笑)、実際にここで暮らしている日数はまだ一カ月程度。それでも、この西荻窪というこぢんまりとした街での暮らしが、少しずつ身体に馴染んできたように感じている。

引っ越しで変わったのは住所だけではなく、一人暮らしから二人暮らしへの変化もあった。相方である彼女との付き合いは、もうずいぶん昔からのことになる。二人暮らしをするかどうかという話し合いもだいぶ前からしていたのだが、いくつか事情もあって、このタイミングになった。

僕は大学への入学時に実家を出て、四年間は学生寮にいたものの、それから現在に至るまでずっと一人暮らしだったので、ひさしぶりに誰かと生活を共にすることに対して、ちょっと戦々恐々としていた。いくら気心の知れた間柄とはいえ、四六時中一緒に暮らしていれば、お互い何かしら異なる部分や合わない部分も出てくるだろうし。

ただ、実際に一緒に暮らしはじめてみると、思いのほか大丈夫だな、というのが現時点まででの感想だ。

相方は僕と違ってまっとうな勤め人なので、朝早く起きて仕事に出かけ、夜になると帰ってくる。僕は一緒に起きてトーストの朝ごはんを食べ、相方が出かけると自分用のコーヒーをいれ、その日の仕事に取りかかる。昼頃に外に出て、今野書店で新刊の本や雑誌をチェックしてから、駅前のスーパーで食材の買い出し。おひるは外で軽くすませるか家で適当に作るかして、午後は仕事の続き。夕方、相方の帰宅予定時間から逆算して台所で食事の準備を始め、相方が戻ると一緒に晩ごはん。で、夜半前にはすぱっと寝てしまう。

以前の僕は、午前中の遅い時間に起きて、夜は二時か三時まで夜更かしという、典型的な夜型だったのだが、今のような朝型に変えてみると、意外なくらいすんなりと順応できた。むしろ、メールなどの着弾の少ない午前中から早々と仕事に取りかかれるので、前よりも効率がいい。一日のうち、一人きりで過ごしている時間も意外と長いから、気分的にもバランスよく過ごせている感じだ。

二人暮らしを始めてみて、あらためて思うのは……一方が出かける時は「いってきます」と「いってらっしゃい」、戻ってきたら「ただいま」と「おかえり」という、一人暮らしには存在しなかったやりとりがほぼ毎日ある、ということだろうか。一緒にごはんを食べる時には「いただきます」と「ごちそうさま」、寝る時は「おやすみ」で、起きた時は「おはよう」。当たり前と言われればその通りだけど、そういう日々の何気ないやりとりがあるのが二人暮らしで、それらはきっと、自分たちの心を隅々まで満たしてくれる、かけがえのないものなのだとも思う。

今日の午後、半休を取った相方と二人で杉並区役所に行き、婚姻届を出してきた。なぜ今日にしたかというと、今年の中で今日が一番縁起のいい日だそうで、この日にすれば周囲の人たちにもわかりやすいだろうという、割とシンプルな理由から。区役所の受付は案の定激混みで、おまけに最後にもらう予定の各種証明書を交付窓口の担当者がすっかり忘れていたらしく(苦笑)、合計四時間以上も待たされる羽目になってしまった。

僕自身は縁起を担ぐたちではまったくないし、戸籍というものに特に思い入れもない(むしろ、日本の窮屈な戸籍制度に対して腑に落ちないと感じている部分はたくさんある)。ただ、これから僕と相方が二人で生きていくために必要な手続きの一つとして、届を出しておこうと思った。それだけ。

大事なのは、これからどんな風に二人で生きるか、ということだ。なので、まあ、頑張ります。

業務再開

一応、今日から正式に業務再開。まあ、週末のうちからメール連絡とかはちょこちょことやってたのだが。

午前中のうちに仕事関連のメールを各方面に送り、昼にそうめんを茹で、スーパーに買い出しに行き、戻ってからは夏にラダックとアラスカで撮影した写真データのセレクトと現像に着手。毎度のことながら、これがなかなかに手間がかかる。いつまでたっても終わる気がしない。それでも今年はまだ枚数が少ない方なんだけど。

東京に住んでる時の生活のリズムがようやく戻ってきて、ちょっとほっとしている。暑いのは暑いけど、自分主導のペースであれこれ行動できるのは、やっぱり気が楽だ。

……まあ、それもあと1カ月と少々でまた中断されるけど。毎年恒例の、タイ取材。やれやれである。

西荻窪という街

引っ越しにまつわるドタバタがようやく落ち着いてきたので、新しい家の近所を、少しずつ歩き回ってみている。

二十代の頃は荻窪、三十代からこの間までは三鷹で暮らしていたから、その間に位置するこの西荻窪という街にも、以前からそれなりに馴染みはあったつもりだった。のらぼうをはじめとするおいしいごはん屋さんにも、時々足を運んでいたし。ただ、いざ西荻窪に引っ越してきて、朝や夕方など、いろんな時間帯にあちこち歩き回ってみると、全然違う街の表情があちこちにあることに気付く。朝は狭い通り沿いに、荷物の積み下ろしをするトラックがずらっと路駐してるとか。街の至るところに意外なくらい小さな八百屋があるとか。チェーン系ではなく個人経営かそれに近い飲食店が多いけど、それなりに大変そうで、場所によっては移り変わりも早そうだなとか。

実はこの街について、全然何も知らなかったんだな、と思う。これから、徐々に。

引っ越し完了

先週末の土曜日は、引っ越しだった。朝8時に来てくれた業者さんたちが次から次へとダンボール箱を運び出し、昼までに西荻窪の新居に全部運び込んでくれた。午後からはひたすら、一箱々々開けては取り出して整理してのくりかえし。ハウスダストを吸い込みすぎたからか、前日にうっかり夏風邪をひいてしまって、体力的にも地味にきつかった。

それでも土日に黙々と作業を続けたかいあって、部屋の中はどうにか床の見える状態にまでなった。で、今日は杉並区役所で転入手続きと国民健康保険証の変更手続き。杉並区役所、なぜか激混みで、全部で1時間以上はたっぷり待たされたと思う。そういえば、さっき西荻窪駅前のスーパーに行ったら、武蔵野市では見たことのないほどのすごい人混みで、野菜売場の棚はすっからかんだし、買おうと思ってたものも軒並み売り切れ。のほほんとしてた三鷹に比べて、人の密度とか勢いとかが地味に強いように感じる。

さっきまで、銀行や航空会社、各種ショップなどの登録データの住所変更手続きをオンラインで粛々と進めていたのだが、何度もくりかえし新しい住所を打ち込むたびに、ちょっとずつ、その文字列が馴染んでくるような気がする。さすがにまだそんなにピンとはこないけど、半年、一年と時間を重ねていきながら、この街にも馴染んでいければと思う。

ありがとね

この三日間で、引っ越しの準備をかなり進めることができた。不要になった家具や電化製品を友人や業者さんに引き取ってもらってから、空いたスペースを使って、本や身の回りのものをかたっぱしからダンボール箱に詰めていく。一時は文字通り足の踏み場もなくなったが、封をした箱から二段重ねに積み直していくと、どうにか床が見えてきた。あれだけ思い切って不用品を処分したのに、まだこんなにたくさんの荷物があったことに我ながら驚く。まあ、6、7割方は本だけど。

明日の朝、買い替えで不要になった仕事机を粗大ゴミに出し、同じく不要になった冷蔵庫をリサイクル業者さんに回収してもらえば、準備はほぼ完了。がらんとなった棚やクローゼットを見回す。引っ越し屋さんが来るのは、土曜の朝だ。

十年間、この部屋で暮らしてきた。大学入学の時に上京して以来、東京で借りた部屋の中で、一番愛着のあるのは間違いなくこの部屋だ。たくさんの原稿を、本を書いた。ヘタクソながらも自炊を覚え、毎日のようにコーヒーをいれた台所。窓の外、近所の幼稚園からいつも聞こえていた、子供たちの歓声。そんな記憶が、ふわっと甦ってくる。

「ありがとね」。誰に言うともなく、つぶやいてみる。ほんとに、ありがとね。