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自然と人のあいだ

約一年ぶりに、このブログのヘッダの写真を替えてみた。ツォ・モリリの湖畔で見かけた、チベット仏教の真言が刻まれたマニ石の写真。

しばらく前から、僕が何となく追い求めているおぼろげなテーマに、「自然と人のあいだ」というものがある。人は、自然とのつながりなしには生きていけない。自然の力はあまりにも強大で、時に無慈悲に、あっさりと人の命を奪い去る。遠い昔から人は、その強大な自然を目の前にして、何を思っていたのか。ある時は祈りを捧げ、ある時は抗おうとし、ある時は生きようともがき‥‥。

自然と人のあいだにあるものを追いかけていくことで、自然に対する人の本来のありようについて、自分なりに考えてみたい。ラダックの山の中を歩いているうちに見えてきたこのテーマ、次はどの場所で取り組んでいくべきか。来年以降の、自分にとっての課題。

自分が見つからない旅

「自分探しの旅」というと、割とコアな旅好きの人の間では、面白おかしく揶揄されるか、半笑いでスルーされるかのどちらかなんじゃないかなと思う。いつ頃からそういう風潮になったのかはわからないけど、「旅に出ようぜ! 放浪しちゃおうぜ! そしたらきっと新しい自分が見つかるよ?」みたいな主張をする旅行記が、世に出回るようになったからかもしれない。

個人的には、若い時期に何か行き詰まることがあって、「旅に出て、新しい自分を見つけたい!」みたいな動機というか衝動で、ある程度長い期間の一人旅に出るのは、むしろとてもいいことなのではないかと思っている。「どうせ旅に出たって人生何も変わらないし」と、シラけて何もしようとしない人よりよっぽどいい。僕自身、二十二歳の時の最初の海外一人旅は、どん詰まりに行き詰まったあげくに選んだ道だったし。

ただ、そういう「自分探しの旅」で「自分」が見つかるとはかぎらない。というか、まず見つからないと思う。「見つかった!」と満足してる人には「よかったですねえ」と言うしかないが、たぶんそれは「見つかった」と思い込んでるだけ。僕の時は、自分が見つかるどころか、世界というものの大きさ、美しさ、優しさ、怖さ、複雑さ、醜さ‥‥そして不条理さと理不尽さを、これでもかというほど見せつけられて、自分がいかに何も知らなかったかということを思い知らされただけだった。僕の最初の旅は、「自分が見つからない旅」だったと言っていいかもしれない。

でも、そんな風に世界に打ちのめされてしまう旅だったとしても、無駄な経験は一つもないと思う。いつかどこかで、何かにつながるヒントが必ずある。僕の場合もあくまで結果論だけど、今の仕事に携わるようになったのは、あの「自分が見つからなかった」最初の旅の経験があったからこそだったから。

まだ旅を知らない人には、「自分探しの旅」でも何でもいいから、外の世界に飛び出して、ボッコボコに打ちのめされてみることをおすすめする。

細かい性格

終日、部屋で仕事。スピティとラダックについての雑誌記事は、原稿素材一式をまとめてチェックに回した。今日は九月下旬からのタイ取材の下準備に着手。

この取材では、四週間のうちに、結構びっくりするくらいたくさんの場所を調べて回る。下準備では、まずは旅程全体を通じて、街から街へとどうやって移動して、どこに泊まって、どんな風に取材を進めるかを、できるだけ細かく確認していく。特に、大きな街では、調べなければならない宿や店舗の数が膨大なので、地図を見て場所を確認しながら、どういう順番で回っていけば無駄なく効率よく回れるかをシミュレートする。

いやー、細かいなあ。なんて細かい性格。我ながらちょっと嫌になる(苦笑)。出たとこ勝負でがつーんと行けばいいじゃん、と正直思わなくもないのだが、何しろ取材項目が本当に途方もない数なので、少しでも効率化を図ってリスクを減らすしかないのだ。準備不足でくだらないミスをしたら、それこそ依頼元に申し訳ないし。

そんなわけで、これからしばらくの間、ちまちまと細かい作業を続ける。

写真を選ぶ

終日、部屋で仕事。先日依頼を受けたスピティとラダックについての雑誌向け記事に使う写真のセレクトに没頭する。

今回の記事が掲載される雑誌は、判型がA4サイズよりもさらに幅2センチほど大きいし、8ページも使えるので、写真の載せがいがある。去年から撮影し続けて以来、まだほとんど外部に発表していない写真をようやくちゃんとした形で発表できる最初のチャンスだから、いやがうえにもセレクトに力が入る。あれも載せたい、これも載せたい‥‥そしてはたと気付く。8ページも使える、ではない。8ページしか使えない、のだ。載せたくても載せられない写真の、なんと多いことか。

この記事が完成した後、これを目にした人たちは、どんな風に思うのだろう。自分が「これはいい」と思っている写真でも他人にはそうでもなかったり、そうかと思えばその逆の場合もあるから、正直、どうなることやらわからない。でも、どうにかして、届けたいのだ。あのスピティの谷を吹き抜けていた、乾いた風の感触を。

いきなりフル操業

昨日の朝、インドから日本に戻ってきた。

もともとは先週の土曜朝に戻ってくる予定だったのだが、金曜朝にレーからデリーに飛ぶはずの飛行機がレーの悪天候でキャンセルになってしまい、同じ日の夜に乗る予定だった帰国便も、二日後の日曜夜発の便に変更せざるを得なかったのだ。いつもお世話になっている日本の旅行会社のご協力のおかげでたいした出費にもならず事なきを得たが、手配がつくまではヒヤヒヤものだった(苦笑)。

今日は午後から目黒で打ち合わせ。九月下旬から四週間の予定で取り組むタイ取材について。初めての媒体だし、取材場所も行ったことのない街ばかりなのでどうなることやらという感じだが、何とかうまくやり遂げたいところ。明日も午後から大事な打ち合わせがあるので、さっきまでその準備に追われていた。帰国していきなりフル操業。まあ、ありがたいことではある。

春先に出版社に預けて以来、しばらく進捗が滞っていた新しい書籍の企画の件も、再び検討作業が動き出したという。いい答えが出るといいな。そんなこんなで、いろいろフル操業でがんばる。