Tag: Travel

形にする

この間からずっと自分の中でつっかえて手が付けられないでいた作業に、昨日あたりから、ようやく取り組めるようになってきた。形にするとしてもあと一年くらい先の話なのだが、まずは自分の中でイメージが固まりつつあることに、ちょっとほっとする。

ずっとつっかえて悩んでいたのは、たぶん、確信が持てなくなっていたからだと思う。「‥‥そこまでして、それを形にすることに、意味があるんですか?」‥‥同じような言葉を何度も何度も浴びせられているうちに、自分の中でも揺らいで、わからなくなってしまっていたのだ。

それでもやっぱり、立ち向かうしかない。

これを形にすることに意味があるかどうかなんてわからないけれど、形にしなければ、意味があるかどうかさえ確かめられない。大切にしていることを伝えるために、今の自分にできる一番いい方法で、形にする。意味があるかどうかを判断してくれるのは、それを手に取ってくれた人だ。

それでいいのだ、と思う。

パシュミナ

昼のうちはうららかな日和だったけど、夕方に外に出かけようとすると、さすがに風が冷たくなっていた。薄手のダウンに袖を通し、襟元にパシュミナのマフラーを巻く。

このマフラーは、今年の夏にラダックで手に入れたもの。メインバザールに並ぶカシミール人の店で売られている鮮やかな色合いのものではなく、ラダック人経営の店にあった、生成りのパシュミナの色のままのマフラーだ。首に巻くとふわっとしていて、巻いてるのを忘れそうになるほど軽い感触、でも暖かい。生成りだから、だいたいどんな服にも合わせられる。いい感じ。

暮れていく空の下を歩きながら、時折、襟元に指で触れてみる。ラダックはもう、すっかり冬なのだろうな。

トラベラーズ・チェックに思う

ちょっと前のニュースなのだが、アメリカン・エキスプレスのトラベラーズ・チェックが、来年三月末で日本国内での販売を終了することになったそうだ。トラベラーズ・チェックの販売は、Visaなどもずいぶん前に撤退しているし、クレジットカードの普及が進む今、海外旅行での需要も減っていたのだろう。

僕にとって、二十代初め頃からの海外への旅では、トラベラーズ・チェックは欠かせない存在だった。アジア横断の旅の途中、ネパールでホテル泥棒にやられて一文無しになった時も、トラベラーズ・チェックの控えがあったおかげで、近くの銀行ですぐ再発行してもらえたので、何とか旅を続けられたという経験もある。ノスタルジーと言われれば確かにそうかもしれないが、自分の旅の一部であったものがもう手に入らなくなるというのは、正直ちょっと寂しい。

フリーランスというだけでクレジットカードの審査にも通らない(苦笑)身の上としては、これからの旅には、審査不要のVisaデビットカードとかを導入していくしかないのかなと思う。変わっていくのだな、旅のカタチも。まだ手元にある数百ドル分のトラベラーズ・チェックは、まさかの時のお守りとして持っていくことになりそうだ。

旅と居場所

すっきり晴れた、気持ちのいい日和。こまごましたものを買う用事があって、午後、吉祥寺までぶらぶら歩いていく。

歩きながら、頭の中にくりかえし浮かんでくるのは、一昨日のクーデルカの写真展と、図録に書かれていた彼の言葉。無国籍の身の上で流浪の旅を続けながら写真を撮っていた彼は、自分の居場所だと思える場所を見つけてしまわないように、必死に耐えていたのだという。はたしてそれは、いかほどの苦しみだったことか。

僕はかつて、いろんな場所を旅しながらも、心のどこかで、ここは自分の居場所だと思える場所に出会えることを望んでいた。そしてラダックという場所と巡り会い、かけがえのない時間をそこで過ごした。でも、それができたのは、僕にとってのもう一つの居場所、生まれた国である日本という場所があったからなのだと、今はわかる。僕はたまたま、恵まれていたのだ。今の自分があるのは、実力でも何でもなく、たくさんの幸運に支えられていたからにすぎない。

自分を支えてくれていた幸運を、おろそかにしてはならないな、とあらためて思った。

夏から冬へ

急に、すとんと寒くなった。冬とは言わないまでも、すっかり晩秋といった気配。

今年は何だか、自分の中での季節感が、おかしなことになっている。七月から八月にかけてのラダック滞在は、季節以前にヒマラヤの世界での日々だったからまあ置いといて、八月中旬から九月中旬までは日本の残暑にやられ、その後はさらに蒸し暑いタイでの四週間。八月から十月まで、ずっとTシャツ短パンで過ごしていたことになる。暑さで身体中の汗腺がすっかり開ききっていたのに、帰国してたった三週間でこの気候というのは、なかなかきつい(苦笑)。

とりあえず、うっかり風邪とかひいてしまわないようにせねば。おでんでも作ろうかな。