平日の午後

穏やかな日和。風はちょっとだけ肌寒い。今日は特に焦ってやらなければならない作業もないので、午後は外に出かけてみることにした。

駅前まで歩いていき、いつもの理髪店で散髪。それから電車に乗って新宿へ。本屋を何軒かぶらついて、「旅行人」のグジャラート特集号のバックナンバーを購入。最近、カッチの少数民族のことがちょっと気になっているので。あと、ふらっと入った無印良品で、不足気味だったTシャツや靴下を安くまとめ買い。本当は、今日は新しいジーンズでも買おうかと思っていたのだが、こまごました買い物をしてるうちに何だか満足してしまって、ジーンズ購入は順延することにした。

帰る前に、何年かぶりにアカシアでロールキャベツ定食。変わらない、懐かしい味。こういうお店も、今や東京では貴重な存在になってしまったのかなと思う。

どうということのない、平日の午後。東京に戻ってきた、という実感がようやく湧いてきた。

父について

2011年7月27日未明、父が逝った。71歳だった。

当時、父は母と一緒に、イタリア北部の山岳地帯、ドロミーティを巡るツアーに参加していた。山間部にある瀟洒なホテルの浴室で、父は突然、脳内出血を起こして倒れた。ヘリコプターでボルツァーノ市内の病院に緊急搬送されたが、すでに手の施しようもない状態で、30分後に息を引き取ったという。

父の死を報せる妹からのメールを、僕は取材の仕事で滞在中だったラダックのレーで受け取った。現地に残っている母に付き添うため、翌朝、僕はレーからデリー、そしてミラノに飛び、そこから四時間ほど高速道路を車で移動して、母がいるボルツァーノ市内のホテルに向かった。

車の中で僕は、子供の頃のある日の夜のことを思い出していた。その夜、僕たち家族は車で出かけて、少し遠くにある中華料理店に晩ごはんを食べに行ったのだ。店のことは何も憶えていないが、帰りの車で助手席に坐った時、運転席でシフトレバーを握る父の左手にぷっくり浮かんだ静脈を指でつついて遊んだことは、不思議によく憶えている。指先に父の手のぬくもりを感じながら、「もし、この温かい手を持つ人が自分の側からいなくなったら、どうすればいいんだろう?」と、不安にかられたことも。

翌朝、病院の遺体安置所で対面した父は、まるで日当りのいい場所で居眠りをしているような、綺麗で穏やかな顔をしていた。腹の上で組まれた父の手に、僕は触れた。温かかったはずのその手は、氷のように冷たく、固かった。

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もうひとつの日常

今朝8時半に成田着の飛行機で、ラダックから日本に戻ってきた。帰りの機内では、インド人の赤ん坊が数十分おきに派手に夜泣きしていたので、ろくに眠れなかった。やれやれ。

三鷹の自宅で旅装を解き、夕方までひと休みしてから、リトスタで晩酌。新さんまときのこの天ぷら、ニラ肉じゃが、エリンギと厚揚げのバター炒めなどをいただく。ひさしぶりのサッポロ生ビール、やっぱり最高。

ラダックでの日常に区切りがついて、東京でのもうひとつの日常が戻ってきた。これから、今夏の取材の成果を本をまとめあげるという試練が待ち構えている。これまでに支えてくれたたくさんの方々に報いるためにも、やり抜かねば。

食べ納め

今日は雨が降るかもしれないという予報。でも、出発前に最後の洗濯をしておかなければならない。思案した結果、洗濯だけ家でやって、近所のコインランドリーの乾燥機を使うことにした。でも、こういう時にかぎって、まったく雨が降らなかったりするんだよな‥‥。

夜はリトスタで、最後の晩餐。サバの南蛮漬、ズッキーニの挟み揚げ、ラタトゥイユ、いわしと新じゃがのコンフィ、ポテサラちくわ天など、ラダックではお目にかかれないものをがっつり食べ納め。最後にまほろばさんのコーヒーを飲んで、ふー、満足。

というわけで、7月3日(日)から9月4日(日)まで、取材でラダックに行くため、その間、しばらくこのブログの更新はお休みします。ではまた。

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