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正解はどこにもない

冬晴れの気持ちのいい日。今日は仕事をオフにして、一人で出かける。

祖師ヶ谷大蔵に移転したスリマンガラムで、ランチのノンベジミールス。本物のバナナの葉に供されるポンニライスとカレーの数々を、たらふくいただく。ぱんぱんに膨れた腹をさすりながら、日の当たる道をぶらぶら南下。30分ほどかけて砧公園まで歩き、公園のベンチで少し本を読んで、世田谷美術館へ。

美術館では、「祈り・藤原新也」展を観た。想像以上に大規模な回顧展で、藤原さんの代表作から、こんなテーマにも取り組んでいたのかという驚きの作品まで、見応えのある内容だった。この地上に存在する、生きとし生けるもののありようを、愚直なまでにずっと追い続けてきた人なのだなあ、と。

今時のフォトグラファーが撮る「映え」重視の写真に比べると、藤原さんの写真には、セオリーもテクニックも気にせず、ただその場で感じたまま撮って、そのまま差し出したような作品が多い。文章もそうで、セオリーを飛び越えた天衣無縫なところがある。そうした写真と文章を、ためつすがめつ眺めながら……写真って、文章って、そもそも何なんだろう、何をどうすればいいんだろう、正解なんてどこにもないんじゃないか?……と、自分自身のこれまでを省みつつ、あれこれ思い巡らせたりしていた。

よく見ること。相手だけでなく、自分自身の内側も。結局は、それなのかもしれないな。

あまり急がず、あまり焦らず

少し前から、新しい本の執筆に、本格的に取り組んでいる。

今度の本は、ここ何年かの間に続けざまに書いていた旅行記ではなく、ある意味、もっと実用的な本。文章と写真以外の要素も複数絡んでくるので、編集者目線でも都度チェックしながら書き進めていく感じになっている。作家的なモードというよりは、純然たるライターのモード。これはこれで、すっかり慣れ親しんでいるというか、いろんな修羅場をくぐり抜けてきたモードではある。

とはいえ、一冊の本を丸々書き下ろすのは、本当に長い、長距離走のような作業なので、あまり急がず、あまり焦らず、でもあまりゆっくりし過ぎないように(苦笑)、淡々と書き進めていこうと思う。

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洪愛珠『オールド台湾食卓記 祖母・母・私の行きつけの店』読了。素晴らしかった。これがデビュー作とは思えないほど、穏やかで抑制が効いていて、それでいてどこかふんわりと軽やかな文章。台湾の古き良き食の伝統と、今は亡き母や祖母とのかけがえのない思い出とが、幾重にも重なり合うように綴られていく。彼女がこれからの彼女自身の人生を生きるために、書かずにはいられなかった、書かれるべくして書かれた本だったのだと思う。

原稿執筆ぼっち合宿 in 安曇野


三泊四日で、一人で安曇野に行ってきた。滞在の目的は、割と重要でまとまった量の原稿を書くため。レジャー要素完全排除の、原稿執筆ぼっち合宿。

二年前に『インドの奥のヒマラヤへ ラダックを旅した十年間』を書いていた時は、湯河原の温泉旅館の原稿執筆パックを利用したが、今回は安曇野にある両親が建てた小さな家での滞在。車の免許を持ってない僕でも何日か過ごせるように、今年の春、ネット通販で買った自転車を安曇野の家に届けてもらっておいたので、それを活用する形にした。

食糧は、西荻の自宅からレトルトのカレーとパックのごはんを二食分持参したほかは、現地のコンビニ(地味に遠い)まで自転車で行って調達。ほとんどインスタント食品になってしまったが、それはそれで普段とは違う非日常な感じで、ちょっと愉しかった。とはいえ、主目的は原稿の執筆。普段の生活で衣食住に割いている時間やリソースを、執筆に全振りして、朝から晩まで机に向かって、うーんうーんと唸りながら原稿に取り組んだ。集中したおかげで、どうにか当初設定していたノルマは達成できたと思う。

とりあえず、今回である程度やれることはわかったので、執筆作業の規模や内容、タイミングによっては、また安曇野でぼっち合宿を張るかもしれない。まあ、真冬とかには無理かもしれないけど。

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カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』読了。アメリカ南部の小さな町で暮らす12歳の少女の、ゆらゆらと揺れ動く心の裡が、繊細な筆致で丹念に綴られていく。時に奇天烈で、時に理不尽で、時には触れただけで崩れそうなほど脆くて。それは、思春期特有の心理として安易に一般化できるようなものではなく、もっと根源的な自己と他者の関わりあるいは断絶を探ろうとしていた、マッカラーズ自身の苦悩だったのかもしれない。

平松謙三『黒猫ノロと世界を旅した20年』読了。去年、20歳という天寿を全うして虹の橋を渡ったノロ。彼を子猫の頃から知っていた身としては、何とも言葉にしようのない感慨を覚えた。もし20年前、ノロが拾われていなければ、平松さんの人生は今とは相当違ったものになっていただろうし、僕自身の人生にも、何かしらの影響はあったかもしれない、と。あらためて、ノロ、おつかれさま。

「北インド・ラダック〜デリー1800キロ悪路旅」

小学館のアウトドア雑誌「BE-PAL」のサイトで、「北インド・ラダック〜デリー1800キロ悪路旅」という短期連載を始めました。2022年夏に約1カ月半をかけて取材したインド北部での旅の一部始終を、ユルめの写真紀行の形で紹介していく予定です。

「北インド・ラダック〜デリー1800キロ悪路旅」山本高樹(BE-PAL)

よかったらご一読ください。よろしくお願いします。

「ワンペン、ワンチョコレート」について思うこと

以前、「バター茶の味について思い巡らすこと」や「アラスカの無人島で過ごした四日間」などのエッセイを寄稿した金子書房のnoteで、新しいエッセイを書きました。「『ワンペン、ワンチョコレート』について思うこと」という文章です。同社のnoteで展開されている「孤独の理解」という特集のテーマで依頼を受けて、執筆しました。

お時間のある折にでも、読んでみていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。