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冬の影

一年ぶりに、陣馬山から高尾山までの尾根道を歩いてきた。去年は風が強くて結構寒かった記憶があったので、しっかり着込んだ上にザックにはインナーダウンとアウターシェルを詰め込んでおいたのだが、今日は風はほとんどなく、時間が経つにつれ気温もぐんぐん上がって、15℃くらいにまでなった。おかげでラクに歩けたが、ぴりぴりと頬を切るような風を期待していたので、ちょっと物足りなかった気もする(笑)。

年末年始の不摂生のせいか、今日は身体がかなり重く感じた。ひさしぶりの山行だからか、足さばきもいまいち思うようにいかない。こういう時はペースをおとなしめにキープして、じっくりと慎重に足を運ぶように意識する。すると、だんだん山歩きでの足さばきの感覚が甦って、調子が戻ってきた。トータルでは、約6時間。去年は5時間半くらいだったはずだが、気持ちスローペースで休憩もやや長めだったので、こんなところだろう。

朝の早い時間帯にこの尾根道を歩く時、冬の日差しが足元に木々の影を落とすのが好きだ。立ち止まって写真を撮っていたら、山歩き慣れしていそうな父親と男の子が、仲良くおしゃべりしながら僕を追い越していった。

誰がための冒険ではなく

僕はよく、面と向かって、あるいは人づてに、「ヤマモトさんは、冒険家なんですか?」と聞かれる。「ワセダの探検部出身ですか?」と経歴を確かめられたり(まったく関わりはない)、「ひげもじゃでクマみたいにゴツい人だと思い込んでました」と言われたり(メガネでひょろっとしたヘタレのおっさんである)。たぶん、ラダック関係で書いた2冊の本や、雑誌などに時々寄稿している記事から、そういうイメージを持たれているのだろう。

実際、僕は単に物書きと写真を生業にしているだけの男だ。今も昔も、写真や文章のネタとしての「冒険」はしていない。僕の仕事は、ある場所に行って、自ら見て聞いて感じた物事を、文章と写真で伝えること。その過程でくぐり抜けねばならないリスクがあれば挑む場合もあるかもしれないが、それ自体は目的ではない。犯さなくていいリスクは、極力避ける。人の助けが必要なら頼りまくるし、文明の利器が使えるならそれにも頼りまくる。だから僕は、冒険家ではまったくない。

もちろん、世の中には、前人未到のチャレンジを成し遂げることを目標に活動を続ける冒険家の方々がいることも承知している。周囲にも、直接あるいは間接的に存じ上げている著名な方々は多い。周到な準備と計画、頑強な身体と卓越した技術、そして目標達成への執念。けっして無謀ではなく、紙一重のリスクを冷静に見極めつつ、時には撤退する勇気も持つ。どれも自分には真似のできないものばかりだし、彼らが書いたり語ったりする言葉には、それぞれ唯一無二の価値があるのだろうとも思う。

ほとんどの冒険家は、誰のためとかではなく、自分自身の目標を達成するために、冒険に挑む。それは当然のことだ。冒険に挑む理由を自分の外に求めてしまったら、そのしがらみがギリギリのところで判断を誤らせるかもしれない。ファンの期待や、スポンサーの支援。あるいはアンチに対する反発。それらを背負いすぎると、つらいことになる。

登山家の栗城史多さんが8度目のエベレストへの挑戦中に亡くなったというニュースを知って、頭に浮かんだのが、そんなもやもやした思いだった。登山の実況中継という「冒険の共有」にこだわりすぎて、リスクの見極めに無理が生じてはいなかったか。もし、何よりも自分自身のための登山であったなら、実力に合ったルートや酸素ボンベの携行という選択も含めて、登頂して帰ってこられる可能性は、ずっと高かったはずだ。仮にそうしても、その後に彼が語る言葉には、十分すぎるくらい人の心を動かすものが宿っていただろうに。

誰がための冒険ではなく、自分自身のための冒険をしてほしかった。

一年ぶりの丹沢表尾根


昨日は朝の4時に起きて、電車に乗って秦野へ。ヤビツ峠から塔ノ岳まで、丹沢表尾根を歩いてきた。ヤビツ峠のバス停から登山道の入口まで歩いて行く途中でいつも気になっている、謎めいた看板。

冬の尾根道を歩く

ひさしぶりに、陣馬山から高尾山までの尾根道を歩いてきた。前に歩いたのは去年の2月だから、ほぼ一年ぶりか。まだ正月3日目なので混んでるかも、と思っていたが、陣馬山方面はそれほどでもなく、快適に歩くことができた。高尾山界隈は案の定、人、人、人で、高尾山口まで歩き終えるとすぐに退散したのだが。

今日は気持のいい青空が広がっていて、富士山の姿も、道中ずっとよく見えていた。昼頃から急に風が強くなったものの、アウターシェルのおかげで全然平気だった。ただ、途中ですれ違った登山者の中には、明らかに薄着すぎる人たちも結構いた。体力のあるトレイルランナーならともかく、あんな不十分な装備だと低体温症になってしまうのでは……。実際、動けなくなったのか、救助隊に保護されている登山者も見かけたし。

今回はジェットボイルは持って行かず、手持ちの魔法瓶を2本、一方にほうじ茶、もう一方にお湯を入れたものを用意した。食事はモンベルのガーリックリゾッタと、即席の具だくさん味噌汁。魔法瓶のお湯を注いで、すぐに食べてしまおうという算段だ。リゾッタは3分でできるので、待ち時間が短くて助かる。おかげで風が吹きすさぶ中、寒い思いをして待たされずにすんだ。間食はドライパイナップルとチョコレート羊羹。

今日は割とスローペースで、陣馬高原下バス停から歩きはじめて、高尾山口まで、だいたい5時間半。昼食などの休憩時間を差し引いた歩行時間は、4時間50分くらいだった。膝回りをはじめとする体調も特に問題なし。この調子で、じわじわと体力面のベースアップをしていければと思う。

「WILDERNESS No.7」

9月28日(木)発売のエイ出版社のアウトドア雑誌「WILDERNESS No.7」の巻頭コラム「Mapping the world」で、ザンスカールのチャダル・トレックについての文章と写真を寄稿しました。チャダルについての文章を書いたのは、ずいぶんひさしぶりです。書店で見かける機会がありましたら、お手にとってご覧になっていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。