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「ムンナ兄貴とガンディー」

東京外国語大学で昨日行われたTUFS Cinema南アジア映画特集で、「ムンナ兄貴とガンディー」を観た。ラージクマール・ヒラニ監督による2006年制作の作品で、同監督の出世作「ムンナー・バーイ」シリーズの2作目。主演のムンナ兄貴にサンジャイ・ダッド、ヒロインはヴィディヤ・バーラン。子分のサーキットのアルシャド・ワルシや、憎めないラッキー・シンのボーマン・イラニなどの脇役も芸達者揃い。

ムンバイの筋金入りのヤクザ、ムンナ兄貴は、ラジオDJのジャンヴィ(の声)に夢中。彼女に一目会いたいと、番組が企画したガンディーにまつわるクイズに応募し、ズルい方法(笑)を使って全問正解。念願叶ってジャンヴィと知り合えたものの、ひょんな成り行きでガンディーの知識を身につけなければならなくなったムンナ兄貴は、図書館にこもって彼にまつわる本を読みあさる。すると、目の前に現れたのは……。

この作品、スラップスティックなコメディ映画として実によくできていて、物語の展開も、お約束通りと思わせておいて常にその斜め上をいくので、最後までまったく飽きない。ヤクザ者が主人公なのに、バイオレンスなアクションがほとんどない。にもかかわらず痛快。そしてしんみり考えさせられたり、ほろりと泣かされたり。あまりネタバレしてしまうのもよくないのでこのあたりにしておくが、何なんだろう。すごい物語を観させてもらった気がする。藤井美佳さんによる日本語字幕も素晴らしかった……。

映画を観終えて、建物の外に出た時、何ともいえない爽快さと満たされた気分に浸れるのは、ヒラニ監督の作品に共通する後味だと僕は思っている。

「デチェン・ラモの言葉」

金子書房のnoteに、「デチェン・ラモの言葉」というエッセイを新しく寄稿しました。同社のnoteで展開されている「心機一転・こころの整理」という特集のテーマで依頼を受けて、執筆したものです。旅先で一文なしになった時の話(苦笑)とかをまくらにしつつ、本当にどうしようもなくきつい時期に支えられた言葉について書いています。

よかったら、読んでみていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

「エンドロールのつづき」

最近は日本でも、ほぼ毎月のように、インド映画が各地の劇場で上映されるようになった。以前、映画祭や特集上映に何度も足を運んだり、エアインディアの機内で寝る間も惜しんで観まくってた頃に比べると、隔世の感がある。「バーフバリ」や「RRR」などのヒットのおかげもあるが、この点に関しては、良い時代になったものだと思う。

今回観たのは、グジャラート映画「エンドロールのつづき」(英題「Last Film Show」)。グジャラート出身のパン・ナリン監督は、BBCなどやディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー番組の制作でキャリアを積んできた方だそうで、この作品は、本年度のアカデミー賞国際長編映画賞のインド代表に選ばれている。

監督自身の少年時代への追憶を基にした物語は、グジャラートののどかな自然の中にぽつんとある、小さな鉄道駅から始まる。駅でしがないチャイ屋を営む父と、寡黙だが料理上手な母に育てられている少年、サマイは、学校のかたわら、父のチャイ屋を手伝いながらも、街の映画館で観た映画への憧れと好奇心を日々抑えきれずにいた。ある日、映画館に忍び込んだものの、つまみ出されてしまったサマイを見かけた映写技師のファザルは、ある提案を持ちかける。サマイの母が作った弁当と引き換えに、サマイに映写室から映画を観させてやる、というのだ。映写室から開けた新しい世界に目覚めたサマイは、やがて……。

持てる者と持たざる者との格差がいまだに苛烈なインドの社会で、持たざる者が夢を見て、それを叶えることは、簡単ではない。サマイと友人たちが、映画への渇望を抑えきれずにあの手この手で工夫をし続けて(してはいけないことまでしてしまって)、結果的に辿り着いたのは、持たざるが故に発見した、映画の原点とも呼べる姿だった。ある意味で映画の本質に触れたサマイは、その後、周囲との別離と旅立ちの時を迎える。

最初から最後まで、映画と映写機とフィルムに対する監督自身の愛着と惜別の思いがたっぷり詰まっていて、光と色彩に溢れた映像も美しい。いつか、グジャラートに行ってみたいな、と思った。

「RRR」

「バーフバリ」二部作を世に送り出して一躍名を馳せたS.S.ラージャマウリ監督の最新作「RRR」。インド映画史上最高額となる7200万ドルの製作費を投じられたこの大作、主演はテルグ映画界の二大スター、ラーム・チャランとNTR Jr.のダブルキャストで、脇を固めるのはアジャイ・デーヴガンとアーリヤー・バットという超豪華な配役。今年もっとも観ておきたかったこのインド映画を、満を持して観に行ってきた。

この映画の二人の主人公、ラーマとビームには、それぞれモデルとなった実在の人物がいたのだという。実際には出会うことはなかったというその二人の人生が、もし交わっていたとしたら……? という発想が、この作品が生まれたきっかけだったそうだ。大英帝国に支配されていた1920年代のインドでの独立闘争を背景に、叙事詩「ラーマーヤナ」をモチーフにした、この上なく濃密な物語が描き出されていく。最初から最後まで、ただただ圧倒された。3時間が一瞬で過ぎ去った。

S.S.ラージャマウリ監督の作品の特徴は、良い意味での「けれん味」だと僕は思う。演出の常識の枠を軽々と飛び越え、奇想天外な発想と圧倒的な迫力のビジュアルを、次から次へと観客に浴びせ続ける。観ている側も、リアリティとか辻褄とか細けえことはいいんだよ、という気分にさせられるし、実際、それがとても心地良くもある。

彼の作品のもう一つの特徴は、「人間の尊厳」をとても大切にしている点だと思う。主人公やヒロイン、家族や仲間だけでなく、名もなき市井の人々に対しても。彼らの尊厳が理不尽に踏みにじられた時、ラーマとビームは敢然と巨悪に立ち向かう。さらわれた少女を取り戻すために。囚われの友を救い出すために。国や民族の独立云々の前に、人間一人ひとりの尊厳を守り抜くことへの思いが、「RRR」には満ち溢れていたように感じた。

最後に。配信とかを待つのでなく、映画館で、大きなスクリーンで、観ましょう。

「北インド・ラダック〜デリー1800キロ悪路旅」

小学館のアウトドア雑誌「BE-PAL」のサイトで、「北インド・ラダック〜デリー1800キロ悪路旅」という短期連載を始めました。2022年夏に約1カ月半をかけて取材したインド北部での旅の一部始終を、ユルめの写真紀行の形で紹介していく予定です。

「北インド・ラダック〜デリー1800キロ悪路旅」山本高樹(BE-PAL)

よかったらご一読ください。よろしくお願いします。