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「ミッション・マンガル」

2014年から15年にかけて行われた、インドの火星探査計画、マーズ・オービター・ミッション(MOM)。火星の周回軌道上への探査機の投入の成功例としては、世界で4カ国目、アジアでは初の快挙となったこのプロジェクトは、開始から1年半足らず、総予算は(劇中の台詞によると)わずか40億ルピーで達成された快挙だった。その実話を基にして2019年に制作された映画が、「ミッション・マンガル」(邦題の副題は省略)。年明けから日本でも公開されたので、さっそく観に行ってきた。

配役がとにかく華やか。プロジェクトの統括責任者ラケーシュ役にアクシャイ・クマール。もっとも重要な中核メンバー、タラ役にヴィディヤー・バーラン。他にもソーナークシー・シンハーやタープスィー・パンヌーといった主役級の女優をずらりと揃え、南インド映画界からニティヤー・メーナンまで参加。余談だが、シャルマン・ジョーシーが演じたやたら神頼みをしたがる男パルメーシュワルは、彼が「3 Idiots」で演じたラージューを思い出してしまった(笑)。きっとそういう意図で作られたキャラクターなのだろうな。

この「ミッション・マンガル」、インドでよく作られがちなナショナリズムの発揚を狙った作品であることは否定できないのだが、別の大型プロジェクトで失敗して閑職に追いやられたラケーシュやタラをはじめとする「負け犬」たちが、時間も予算もない中で大逆転劇をもたらしたこと、そしてそれは、大勢の女性科学者たちの知恵と工夫と努力があってこそのものだったということが印象的に描かれていて、観ていても、とてもすっきりとした爽快感があった。まあ、ちょっとSFや宇宙開発に詳しい人が見たら、劇中の描写にはツッコミどころ多数だとは思うのだが、そこはほら、娯楽映画ということで(笑)。

物語全体としても、火星探査プロジェクトの始まりから成功までをスピーディーに描いていて、わかりやすい展開だったとは思う。ただ、全体的に多少冗長になったとしても、豪華な顔ぶれの各キャラクターの描き込みの尺が、それぞれもう少しあってもよかったのでは、とも思った。各キャラクターごとに撮ってはいたけれど、最終的にカットされた場面も多かったのかもしれない。

それにしても、ヴィディヤーは、本当に上手い。今、インド映画界で一番演技が上手いのは、間違いなく彼女だと思う。

「ジガルタンダ」


インディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで最後に観たのは、タミル映画「ジガルタンダ」。ラジニ様主演「ペーッタ」を手掛けたカールティク・スッバラージが、その前の2014年に作った作品だ。タイトルは、舞台となるマドゥライの街の名物のアイスクリームシェイクの名前だという。

短編映画コンテストのテレビ番組に出場したカールティクは、審査員の一人の映画プロデューサーから長編の劇場公開作を撮らないかと持ちかけられる。プロデューサーの希望はコテコテのギャング映画だが、社会派映画を撮りたいカールティクは、実在のギャングを取材して脚本を作りたいと考え、身の危険を顧みず、マドゥライで最近悪名高いギャング、セードゥの取り巻きへの接近を試みる。しかし……。

上にリンクを張ったYouTubeの予告編動画だと、この作品の真の姿は、たぶんほとんどわからない。特に後半から、文字通り予測不能な超展開に次ぐ超展開が繰り広げられる。南インド特有の情け容赦ないゴリッゴリのギャング映画かと思いきや……いや確かにそういう映画なのだが……残酷さとペーソスとユーモアが入れ替わり立ち替わり現れる中に、恋とか友情とか先人の教えとか、何より、あふれんばかりの映画愛(!)がみなぎっているのだ。あと、ヴィジャイ・セードゥパティのめちゃ贅沢な無駄遣い(笑)。

映画館を出る時、すごいものを観た、すごいものを観た、と、自分でも言語化できない興奮でいっぱいになった。こんな感じの「してやられた感」は、「ヴィクラムとヴェーダー」以来だろうか。いつかまた、日本で再上映の機会があるようだったら、未見の方はぜひ観ておくことをおすすめする。いやほんと、すごいものを観た。

「人生は二度とない」


キネカ大森で開催中のインディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで一番楽しみにしていたのは、2011年の公開作「人生は二度とない」。リティク・ローシャン、ファルハーン・アクタル、アバイ・デーオールの三人が主演を務め、カトリーナ・カイフやカルキ・ケクランも出るという、スペインを舞台にしたロード・ムービー。監督はファルハーンの姉で後の「ガリー・ボーイ」の監督でもある、ゾーヤー・アクタル。この顔ぶれで面白くないわけがない、と、2021年元旦の映画初めに観に行ったのだった。

親の建設会社に勤めるカビールは、インテリアデザイナーの婚約者ナターシャとの結婚の前に、独身最後の旅行に男友達とスペインへ出かけようと計画する。誘ったのは、学生時代からの二人の親友、ロンドンで株式ディーラーとして仕事漬けの日々を送るアルジュンと、デリーで広告コピーライターをしているちゃらんぽらんなイムラン。些細な喧嘩をしながらも始まった、車でスペインを巡る3週間の旅。それぞれ打ち明けられない悩みや葛藤を密かに抱える3人が、出会い、別れ、経験し、決意したものとは……。

期待通りというか、期待以上に、本当に面白かった。旅という行為のポジティブな面を、全面的に肯定して描いてくれているのが、とても清々しい。スキューバダイビング、スカイダイビング、ブニョールのトマト祭り、パンプローナの牛追い祭りといった大がかりなイベントを組み込み、旅の過程で3人がそれぞれの葛藤を乗り越えて成長していくさまを描いていながら、物語には無理なところも破綻もなく、ある程度のおとぎ話的展開はあれど、とても自然だ。主役の3人をはじめとする登場人物たちも、愛情を込めてコミカルに描き分けられている。今まで、ロード・ムービーはそれなりにたくさん観てきたが、それらの中でも出色の出来だ。

現実の旅なんて、そんな良いことばかりじゃないよ、と言いたくなる人もいるだろうし、その気持ちもとてもよくわかる気もする。でも、この作品に関しては、これでいいんじゃないかな、とも思う。僕自身、旅の中で「こんな経験は人生の中で二度とできない!」という思いを、たくさんさせてもらってきたから。こういうロード・ムービーを観て、「自分も旅に出てみようかな」と思い立つ人がいたとしたら、それはきっと、良い一歩だと思う。

「ジッラ 修羅のシマ」

インディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで3本目に観たのは、「ジッラ 修羅のシマ」。タミル映画界の若大将ヴィジャイと、マラヤーラム映画界の名優モーハンラールが競演するギャング映画だ。

マドゥライを支配するギャングの首領シヴァンは、自分を守るために警官に撃たれて命を落とした手下の子供シャクティを、実の息子以上に愛し、自身の片腕として育て上げた。新たにマドゥライに着任した警視総監を警戒したシヴァンは、警察の内情を察知し骨抜きにするため、シャクティを警官として送り込む策略を企てる。父親の件で警察を忌み嫌いながらも、義理の父親からの頼みを断れず、渋々警官となったシャクティ。だが、その矢先に起こったある事件が、思わぬ方向へとシャクティを導くことになる……。

南インドのマドゥライを舞台としたギャングものと聞いて、血飛沫の舞うゴリッゴリの展開を想像していたのだが、思っていた以上にモーハンラール演じるシヴァンが子煩悩でお茶目で愛嬌すらあって、ヴィジャイ演じるシャクティも義理の父親が好きすぎるので、すんごく濃厚な(義理)親子愛映画になっていた。ただ、その親子愛があってこそ、中盤からこじれていく展開が活きてくるし、真の敵役の出現からのカタルシスあふれるクライマックスに繋がっている。アクションや殺陣のシーンもたっぷりで、ヴィジャイの腕っぷしの強さはいつにも増してチート感がすごい。強すぎ(笑)。

この作品、ダンスシーンも豊富で、中には日本の太秦村とかで撮影されたものもある。ただ、それを含めて全般的に、本編の場面展開とダンスシーンの映像とがかけ離れすぎているものが多くて、観ていてちょっと異物感があった。これはまあ好みの問題だろう。

ともあれ、いい意味でのお約束満載で、観終えた後にヒャッハーな気分になれる、タミル映画の正統派娯楽大作であることは間違いない。おすすめ。

「ムンナー・マイケル」


インディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで観た2本目の映画は、「ムンナー・マイケル」。これも昨年の上映時に見逃していた作品だ。主演はタイガー・シュロフ。脇を固める重要な役どころに、ナワーズッディーン・シッディーキー。

ムンバイの雨降る街角で、しがないバックダンサーに拾われて育てられたムンナー。義父の影響でマイケル・ジャクソンを敬愛する彼は、ダンスで彼のようなスターになる日を夢見ながらも、クラブでの賭けダンスで日銭を稼ぐ日々を過ごしていた。ムンバイのクラブというクラブを荒らして出禁にされてしまったムンナーは、稼ぎ場所をデリーに移すが、その一帯を仕切るギャングのボス、マヘンドラに目をつけられてしまう。しかし、マヘンドラがムンナーに要求したのは、30日間で自分にダンスをマスターさせてほしい、という依頼だった……。

この作品、今のボリウッドでは随一の身体能力を誇るタイガー・シュロフを主役として当て書きしたのに間違いない。今風のボリウッド映画の(良くも悪くも)ベタでダンサブルな楽曲が随所に散りばめられていて、ダンスシーンの映像も華やか。冒頭の導入部の長回し的なくだりも素直に気分がアガる感じ。ただ、物語の組み立ては予想よりかなりあっさりしていて、もうひと工夫、ふた工夫はできたんじゃないかと思う(ムンナーとマヘンドラの仇敵になるような真の悪役一味を用意するとか)。ダンスはともかくバトルでも、最初から最後までムンナーが(お約束とはいえ)チートすぎたのも、少々スリルに欠けた。ヒロインのニッディ・アゲルワールは今作がデビュー作だったらしいのだが、さすがに演技もダンスも固い印象だった。

そんな中でこの作品のバランスを保っていたのは、マヘンドラを演じたナワーズ兄貴の力の抜けたコミカルな演技だったと思う。この人は、どんな役をやらせても上手い。マヘンドラが特訓の成果を見せるダンスシーンは、顔の映らないカットを多用して(バレバレだけど)ごまかしてたけど(笑)。

本当の意味での悪人はほぼ誰もいない、平和なボリウッド・ミュージカル映画をのほほんと楽しみたいなら、悪くない作品じゃないかと思う。