「Simmba」

台湾からの帰りの飛行機の機内で、インド映画「Simmba」を観た。「ガリーボーイ」の公開で日本でもよく知られるようになったランヴィール・シンが主演。監督は「チェンナイ・エクスプレス」のローヒト・シェッティー。

身寄りのない孤児として育ったシンバは、幼い頃からの「警官になって権力を握る」という夢を実現し、警部としてやりたい放題の放埒な日々を送っていた。赴任先のミラマーでも、地元の黒幕ドゥルバーの悪行を黙認どころか加担までする始末。しかし、妹のように目をかけていた医学生アクリティの身に起こった事件を機に、シンバの生き様も大きく変わることになる……。

今回のランヴィールは、珍妙な髭をたくわえ、軽妙な台詞をマシンガンのようにまくしたてる、コミカルな役。「ガリーボーイ」のムラドとも、「パドマーワト」のアラーウッディーンとも全然違う役で、ある意味、CMの「チンさん」に一番近い(ローヒト・シェッティーも以前このCMの監督を担当しているし)。この「Simmba」でも、軽薄ながらもキメる時はキメてくれて、観終わった後にすっきりさせてくれるような役回りなのかな、と思っていたのだが、さにあらず。

インドではしばらく前から、フェイク・エンカウンター(偽装遭遇戦)という事象が社会問題になっている。警察や軍が、犯人が刃向かったとでっち上げて、自分たちで超法規的に粛清してしまうというものだ。理由は、凶悪犯罪だが裁判による立証が難しいとか、警察や軍にとって都合の悪い犯人の口封じとか、いろいろあるようだが、いずれにしても、まっとうな方法ではない。去年の暮れにも、ハイデラバードで起きた集団レイプ殺人事件の犯人4人が、現場検証に連れ出された際に「警官から銃を奪って発砲したため」その場で射殺される、という事件が実際に起こったばかりだ。

ネタバレになるので詳細は書かないが、「Simmba」では終盤、フェイク・エンカウンターによる粛清を礼賛していると受け取られかねない展開があって、観終えた後の後味は、正直言ってすこぶる苦い。娯楽映画なのだから、もっとまっとうに、知恵と勇気と人情で逆境を跳ね返す展開にできなかったものか……。そのあたり、かなり残念だった。

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