「サーミの血」

スカンジナビア半島の北部に位置するラップランド地方は、先住民族のサーミ人が暮らす土地だった。近代文明の流入に伴い、サーミ人は各国で劣等民族として差別的な扱いを受けてきた。僕は二年前にプレスツアーでノルウェーのトロムソを訪れた時、つい数十年前まで迫害され続けていたサーミ人の歴史について初めて知った。だけど、この「サーミの血」という映画は、彼らの受けてきた差別が実際どのようなものだったか、理屈ではなく、恐ろしいほど生々しい感覚のまま、我々の目の前に差し出している。

自らもサーミ人の血を引くというアマンダ・シェーネル監督は、劇中の衣装や小道具、トナカイの扱いなど、サーミ人の生活様式に関わる演出は徹底的に検証して再現したという。主人公のエレ・マリャを演じるレーネ=セシリア・スパルロクもサーミ人だが、ひとことも発しなくても、その瞳だけで、サーミ人であることの誇りと怒り、そして悲しみを表現していたのには、圧倒された。彼女なくしてはけっして撮ることのできなかった映画だと思う。

こうした差別という人間の宿痾は、さまざまな形に姿を変えながら、世界中の至るところで今も横行している。日本でも、そうだ。お互いの違いを認め合い、ありのままを受け入れること。どうしてそれをできない人々が、こうも多いのだろう。

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