嘘は書かない

取材やインタビューを基に文章を書くことを生業にするライターにとって、何よりも守らなければならないのは、「嘘を書かない」ことだ。賞賛するにせよ、批評するにせよ、取材では誠意を持って話を聞き、きちんとそれに基づいた文章を書かなければならない。事実と異なる話を書いたり、書き手の欲する結論に無理やり歪曲したりするのは、ライターの仕事としては、論外だ。

そんなの当たり前じゃないか、という人は多いとは思うが、実際にライターとして働いていると、嘘を書くことを要求してくる依頼元は、結構あるのだ。依頼元にとって都合のいい結論にしろとか、取材では出ていないけどこういう内容も入れろとか。その場合、ライターはどうすべきか。

僕の考えは、一択だ。絶対に、嘘は書かない。どうしても書けと言われたら、その仕事からは降りる。

そんなことしていたら取引先をなくしてしまう、と心配する人もいるかもしれないが、嘘を書くことを強いてくるような依頼元との取引は、どのみち長続きしない。それよりも、嘘の混じった仕事をなし崩し的に続けてしまうと、どこかで思いもよらない形で、そのライター自身に対する悪評が広まる危険性がある。「あのライターは、取材で話してもいない作り話を勝手に書いた。信用できない」というような。いったん失ってしまった信頼を取り戻すのは、本当に難しい。目先の仕事の本数なんぞよりも、失うものが多すぎる。

「ヤマモトさんは、こっちが話したことをそのまま書いてくれますね。言ってもいないことを書いたりはしない」と、以前取材した人に言われたことがある。逆に言えば、今の世の中には、自分たちの欲しい結論ありきで、取材対象者が言ってもいないことを書いたりするライターが少なからずいるということだ。確かに、ライター稼業は、地べたを這いずるようなきつい仕事だ。きれいごとだけではやっていけないという人もいるかもしれない。それでも僕は、嘘は絶対に書かない。嘘を書かないことで、つながっていく信頼と仕事は、確かにあると思う。

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