旅の本、冬の時代

旅の本が、売れていない。書店の旅行関連コーナーに行っても、平積みされている新刊の点数が明らかに少ない。各社でシリーズ化されている旅行ガイドブックも軒並み低調だそうで、コスト的に改訂のメドが立たないものまであるという。

そもそも、海外旅行業界全体が思わしくない状況のようだ。長引く円安傾向に加え、混迷を極める中東の政情不安は、テロという形で欧米諸国にも波及している。地震などの自然災害や、少し前のエボラ出血熱の流行など、マイナス要因を挙げはじめたらきりがない。プラスになりそうな要因は、原油安による燃油サーチャージの低下くらいだろうか。今、日本からの旅行先で安定して人気なのは、台湾だけではないかと思う。その証拠に、台湾関連の本や雑誌、ムックの刊行点数だけが、最近飛び抜けて多い。

こういう状況になると、しばらく前からいつのまにか「トラベルライター&フォトグラファー」みたいなレッテルを貼られている(苦笑)僕のような人間は、やっぱり困る。僕自身は別に旅だけを専門にしてるわけではなく、今も旅とはまったく関係ない本を編集していたりするのだが、個人的に大切にしている企画のいくつかが旅にまつわる本であることは間違いないので、こういう旅行書の冬の時代の到来はきつい。

新しい旅の本の企画書を作っても、出版社では今、前にも増してなかなか相手にしてもらえない。多くの出版社が望むのは、とにかく確実に売上が見込める本。斬新なアイデアは敬遠される。だから、他社の売れ筋企画を臆面もなくパクった本が次々と出てしまったり、同じ地域についての本ばかりが妙に増えてしまったりする。本が売れないから、出版社が用意する予算はどんどん少なくなり、それにつれて品質も下がっていく。

そんな冬の時代に、僕のような人間には、何ができるのだろう?

この仕事をしている以上、常に心のどこかで、カキーンと逆転満塁ホームランを放つためのアイデアを考え続けてはいる。でも、その確率はあまり高くないし、たとえ打てたとしても、実際はそれほど潤沢に報われるわけでもない。

それよりもたぶん大事なのは、逆転満塁ホームランとは別に、本当の意味で自分が大切にしているもの、作りたいと思える本のアイデアを、ぶれずに心の中で持ち続けることなのだと思う。仕事をどうにかこうにかやりくりして持ちこたえながら、チャンスが訪れるのを、息を潜めて虎視眈々と待ち続けるしかないのだ。

‥‥ほんと、バイトでもしようかな(苦笑)。でも、もうしばらく、がんばろう。作りたい本を、作るために。

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