アラスカ(2):アラスカ鉄道、キャンプ・デナリ

フェアバンクスからデナリ国立公園まで、アラスカ鉄道に乗る。この列車、夏の間は特に観光客に人気の路線らしい。ネイビーの車体にイエローのストライプがシンプルで格好いい。考えてみれば、こんな風に旅先で列車に乗るのはかなりひさしぶりだ。

黄葉の森の中を、トロトロと列車は走る。乗客の大半は見晴らしのいい展望デッキに行ってしまっていたので、一人でぼんやりと窓の外を眺めながら、静かに考えごとをすることができた。

デナリ国立公園に近づくと、列車はネナナ川沿いの渓谷地帯を走るようになった。今の季節が、このあたりが一番美しくなる時期なのかもしれない。

昼過ぎに列車を降りた後、デナリ国立公園の最深部、駅から150キロ離れた場所にあるロッジ、キャンプ・デナリに向かう。この国立公園では、基本的に一般車両はほんの入口までしか入ることができず、日帰り観光客用のサイトシーイング・バス、キャンプをする人専用のキャンパー・バス、そして国立公園内にある数軒のロッジの送迎バスのみが通行を許されている。

キャンプ・デナリのバスは、150キロの道程を7時間近くもかけてゆっくりと走る。単なる移動ではなく、デナリ国立公園の美しい自然をドライバーのガイドとともに楽しみながら走るためだ。途中で動物が現れたら、その都度停まってじっくり観察する。ちょっと早めの夕食は、川のほとりでピクニック。ハムやスモークサーモン、チーズ、野菜、果物などを好きに選んで、自分でサンドイッチを作って食べる。

淡い空の下、鮮やかな深紅と黄色に染まった秋のツンドラの向こうには、ほんの一週間前に降ったという初雪を戴いた山々がそびえていた。言葉を失うほどの見事な色彩のコントラスト。

キャンプ・デナリが建てられたのは、今からちょうど60年前。星野道夫さんの著書にもたびたび登場する、シリア・ハンターとジニー・ウッドが中心になって建てたキャビンがその始まりだった。今は18のゲストキャビンのほか、食堂や居間などのキャビンがある。デナリ国立公園のもっとも奥、ワンダー湖の近くにあり、晴れた日にはデナリ(マッキンレー)をはじめとするアラスカ山脈の山々が一望に見渡せる。まあ、デナリはそう簡単には姿を見せてくれないのだけれど。

毎日催行されるハイキングのガイド代や食事代まで含んでいるとはいえ、キャンプ・デナリの宿泊料金は決して安くはない。それでも、営業期間の夏の間はいつも満室。一年くらい前からでなければ、予約するのも難しいそうだ。小さなゲストキャビンには電気は通じておらず、灯りはガスランプ、暖房は自分で焚く薪ストーブ。水道やトイレはキャビンの外にあり、シャワーは共同。でも、これだけ静かで心地よい時間を過ごせる宿を、僕はほかに知らない。それは設備だけでなく、ロッジのスタッフ一人ひとりの朗らかさ、感じのよさによるところも大きいだろう。本当の快適さや贅沢とは何なのか、あらためて考えさせられる。

キッチンスタッフが腕によりをかけて作ってくれる朝食と夕食は、キャンプ・デナリでの滞在の楽しみの一つだ。ロッジ所有のグリーンハウスで育てられた野菜を中心にした料理は、とてもシンプルでありながら、手間を惜しまずに丁寧に作られているのがよくわかる。

夕食の後には、こんなデザートも。毎食々々、いつも違う趣向の料理が出てくるのだけど、どれもこれも、本当においしかった。アラスカ滞在中に食事をした中では、間違いなくキャンプ・デナリがナンバーワンだった。

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