井の中の蛙

二十代の後半くらいから、僕は雑誌の編集者としてのキャリアを積みはじめた。インターネットの専門誌とか、Macの専門誌とか。フリーになってからは、Webデザインの専門誌の立ち上げに関わったりもした。

専門誌の編集部で働いていると、その分野に関するものすごく密度の濃い情報が集まってくる。そうした情報の海に毎日首元までどっぷり浸かってると、世界がその色に染まっているかのような気分になってくる。スペシャリストとしての知識を貯えるには格好の土壌で、同僚にもそういう人が多かったと思う。

でも、当時の僕は、スペシャリストになるのを無意識のうちに避けていた気がする。知識は身につけるに越したことはないけれど、その分野のスペシャリストであることに満足して、井の中の蛙になってはダメだ。ほかの分野でも対応できるような幅の広さも身につけなければ‥‥と。だから僕は、PC系の雑誌のほかに、広告系やデザイン系、もっと地味な実用書系など、やれる仕事はあまり選り好みせずに挑戦していった。‥‥インドの山奥について書くまで間口が広がるとは思わなかったけど(苦笑)。

ある分野のスペシャリストであることは、編集者やライターにとって強力な武器になる。でも、その分野しかわからないけどまあいいや、と自ら割り切ってしまうのは、自分の可能性をただ狭めているだけだと思う。スペシャリストでありながら、井の中の蛙にならないでいることは十分実現できるはず。そういう意味では、自分はフリーになったことで方向性を限定され過ぎずにすんでよかったな、と思う。

今も、インドの山奥の某地方に詳しくなった自分を、これでよし、とはまったく思っていない。もっと学べること、できることはあるはずだから。

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