Works: 西村佳哲「感じることは、つくること」

「西村佳哲さんって、どんな人?」と聞かれたら、おそらく「多才な人」と答えるのが一番しっくりくるのではないかと思う。

「僕の仕事は、大きく3つの分野に分けることができます。1つ目は、"つくる"という分野。MID-TOKYO MAPSやサウンドバムといったWebサイトのデザインプランニングや、メディアアート的なモノづくりなど。リビングワールドというデザインレーベルで取り組んでいる色々な活動も、この分野に含まれると思います。あと最近では、サウンドバムの展覧会や、日本科学未来館の『時間旅行展』の展示物制作もやっています」

「2つ目は、"書く"という分野です。雑誌などでの執筆活動ですね。今年9月には、以前から取り組んでいた、"働き方研究"というテーマの本も上梓する予定です」

「そして3つ目は、"教える"という分野。多摩美術大学や愛知県立芸術大学、静岡文化芸術大学などといったデザイン系の教育機関で、集中講義やワークショップをやっています。空間プランニングや、インターネットとデザイン、最近ではプレデザインという、プリプロダクションの技法をテーマにした授業に注力しています。あとは、体験型学習のスタイルの1つであるワークショップのあり方そのものを取り上げた、全国教育系ワークショップフォーラムという活動にも参加したりしています」

もともと、武蔵野美術大学に在学当時は、工芸工業デザインを専攻していた西村さん。卒業後は鹿島建設に入社し、インテリアデザインや都市計画に関する仕事に携わるかたわら、当時の通産省と凸版印刷の主導で組織された感性産業研究会というプロジェクトにも参加していた。その研究会で西村さんは、自身の運命を大きく変えることになる人物と出会う。それは東北芸術工科大学助教授の文科人類学者、竹村真一さんだった。

「感性産業研究会にはいろんな人たちが集まっていたんですが、僕は流れで竹村さんのグループに入ることになったんです。そこで2年間くらい活動していくうちに、これまで自分の中でモヤモヤしていたものや、考えが途中で止まっていたものとかが、竹村さんが触媒になることによって、自分の中でどんどんハッキリしていったんです。それで、自分のやりたいことはこういうことだ、というのが次第に見えてきたんですよ」

その後、西村さんは鹿島建設を辞めて独立し、竹村さんの事務所であるプロジェクト・タオスで、外部スタッフとして仕事をするようになる。やがて、そこで関わることになったのが、「センソリウム」のプロジェクトだった。

「米国のカール・マラムッドさんという人が仕掛人になって、インターネットワールドエキスポというネット上の万国博覧会が1996年に開催されることになったんです。で、その日本ゾーンのテーマパビリオンとして何かできないかということで、日本の組織委員会からタオスの方に話が来たんですよ。それで竹村さんと、当時外部スタッフとして関わっていた僕と渡辺保史さん、それから当時はまだ電通にいたスペースポートの上田壮一さんの4人で最初の企画を考えることになりました」

「僕らがコンセプトとして考えたのは、"新しい世界経験のあり方"というスタンス。ものではなくて経験をデザインするというか、訪れた人の関わり方で経験が変化するようなものにしたかった。そうやって考えを煮詰めていくうちに、次第に"センスウェア"という概念が固まっていったんです。センスウェアとは造語で、感じることで経験することができる、世界に開かれた窓のようなもの、という意味。Webじゃないと実現できないようなセンスウェアを、少しずつ形にしていこう、ということで制作を進めていきました」

センソリウムのプロジェクトには、東泉一郎さんや江渡浩一郎さん、小崎哲也さんなど数多くの人々が参加。独特のスタイルを持つユニークなセンスウェアが次々と生み出されていった。世界中のさまざまな音に耳を傾ける「WORLD EAR」、ネット上での人々の動きをリアルタイムに視覚化する「WEB HOPPER」、地球上で発生した地震をアニメーションで再現する「BREATHING EARTH」など‥‥。1997年のアルスエレクトロニカでは、ネット部門でゴールデンニカを受賞。センソリウムはその後の日本のWWWの発展における、マイルストーン的なプロジェクトとなった。

センソリウムの仕事は、僕の中にあったモヤモヤがやっと1つ形になった、というものでしたね。間違いなく、僕にとってこれまでで一番大きな転機になった存在だと思います」

現在も、さまざまな仕事の分野で豊富なアイデアを次々と形にしている西村さん。そのアイデアの源泉は、どこにあるのだろうか?

「まったく新しいアイデアがいきなり生まれることって、実はないんじゃないかと思うんです。日常生活の中で小さなアイデアが少しずつ積み重ねられて、それらが組み合わさることによって、1つの大きなアイデアになるんじゃないかと思います。まずは日頃からいろんなものを観察して、書き溜めたり、それについて誰かと話したりすること。そういった作業がすごく大事だと思いますね」

そう言った後、西村さんは笑ってこう付け加えた。

「たとえば出来のいい映画を観て"くやしい"と感じる人は、間違いなくモノづくりに携わっている人ですね。そういう人って、つくる側に視点が回っていくものなんですよ。NASAのニュースとかを見て、妙にくやしくなったり焦りを感じるような人が、次のアイデアを形にしていくんじゃないかな」

(「Web Designing」2003年8月号)

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