Works: 宮崎麻美/okayan「きらきら光る、小さな星」

東京・三鷹駅の南口を出て、中央通り商店街を3分ほど歩くと、1階に古風なおもちゃ屋の入った、煉瓦色のビルがある。1年前、このビルの3階に一軒のレストランがオープンした。店の名は「リトルスターレストラン」。昼はカレーやハンバーグなどが食べられるランチタイム、午後はホットスポットが無料で使えるティータイム、夜はお酒や家庭料理が味わえるディナータイムという、3つの顔を持っている店だ。「ふだん着のごちそう」というキャッチフレーズにふさわしい、毎日でも食べ飽きないホッとする味の料理を楽しめる場所として、静かな人気を集めている。

店長の宮崎麻美さんは、この店を始める前、食品関連のSPプランナーをしていたという。

「私の母(今年の春まで同店の料理長を務めていた宮崎曜子さん)は吉祥寺の飲食店で20年近く働いていて、体調を崩して少し休んでいたんですが、元気になってからはまたお店をやりたいと言っていたんです。それで私が母の店のプランニングをすることにしたんですが、空間や料理、それに合う場所などを考えていると、それまで仕事でやっていたプランニングとは全然違ったんですよ。企業や広告代理店の都合に合わせるのではなく、本当に母や自分が作りたい店----目の前にいるお客さんに喜んでもらえる店を考えるのが、すごく楽しかったんです。母も、私が作りたいお店にすればいいからと言ってくれました」

その後宮崎さんは、母の曜子さん、パートナーでデザイナーのokayanさん、小学校からの友人の深澤圭子さんと一緒に、本格的に開店の準備を開始。物件を探し歩き、内装を考え、自分たちで壁にペンキを塗り、調理器具や中古の家具を選び、メニューを試作し‥‥。慌ただしくも楽しい準備期間を経て、4人は店を無事にオープンした。

「開店前よりも、開店してからの方が大変でしたね」と、ホールでの接客を中心に担当しているokayanさんは当時を振り返る。

「最初の頃は、『どうして、コーヒーって運ぶ時にこんなに揺れるんやろか?』と思ってました。常連さんには今でも、『あの頃は手が震えてたよね』って言われます(笑)。何もかもが初めてだったので、要領が悪かったというか、うまくいかないことも多かったです。想定していた以上に、いろんなことを考えなきゃならなかったですね」

「でも、そういった中で感じたのは、たとえ効率が悪くても、手を抜いたらダメだということ。たとえば、ランチに付くコーヒーは注文が入ったらその都度淹れるとか、つけあわせのマカロニサラダや漬け物も既製品を使わずにちゃんと作るとか、玉子焼きに載せる大根おろしは出す直前におろすとか‥‥。だからこそおいしいと思うし、それがうちの店らしさだと思うんです。そういうこだわりは、お客さんからもダイレクトに反応が返ってきますし、励みにもなりました」

そんなリトルスターレストランには、他の飲食店ではあまり見られないユニークな特徴がある。オープンの準備をしている頃から、店にまつわるさまざまなエピソードを、ブログでずっと更新し続けているのだ。

「店のサイトをブログで作るというのは、最初の頃から考えていました。日替わりメニューの情報や、スタッフの色が出るような、ちょっとした小話を載せています。ネタ探しは大変です。初恋の話まで書くつもりはなかったんですけど‥‥(笑)。サイトのデザインも、流行のカフェのサイトのようにカッコよくはないですが、自分の手で描いた文字やレタリングを使ったりして、店の体温が伝わるように作りました」とokayanさん。

また同店では、「毎月新聞 ごはん」という月刊のフリーペーパーも発行している。旬の食材の話題や店の裏話、スタッフおすすめの本などの情報が載ったこの新聞も、宮崎さんやokayanさんらスタッフが、自ら執筆・撮影・デザインしているものだ。

「ブログも新聞も、自分たちで作っているからこそ面白い部分があると思います。ごはんと一緒で、うちで作った方がおいしく食べてもらえることがわかっちゃうと、もう後には引けません(笑)。3年くらい経ったら、ブログや新聞をまとめて、一冊の本にできたらいいなと思っているんですが」と宮崎さん。

このような試みもあって、リトルスターレストランの評判は、徐々にクチコミで広がりつつある。グルメ情報を扱う雑誌やサイトで大々的に取り上げられるより、こういった自然なクチコミを積み重ねていく方が、はるかに確実で強いのではないかと二人は考えている。

「ブログや新聞も大事ですけど、うちにとって一番大事なのは、ごはんがおいしいということだと思います。これからも、自分の家で友達をおもてなしするようなごはんを作っていきたいですね」と宮崎さん。

「この商売、身体はキツいし、自分の時間もないけど、楽しいんですよ。売り上げ云々より、お客さんが来てくれることが嬉しい。旅先で人と出会う感覚に似ているんです。もう二度と会えないかもしれないお客さんと知り合って、その人がまた来店してくれたりすると、イスタンブールで会った人と香港で再会したくらいに感動します(笑)。一年目は全然余裕がなかったけど、これからはもっと遊びながら、楽しみながらやっていけたらと思っています」とokayanさん。

三鷹の雑居ビルで瞬きはじめた、小さな星のレストラン。5年後、10年後も、この店が同じ場所で、同じように静かに瞬いていることを願って止まない。

(「Web Designing」2005年7月号)

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