Works: 北尾トロ「オンライン古本屋ほど素敵な商売はない」
日本では毎年、7万タイトル以上の書籍が発行されている。それらの中には、内容は決して悪くないのに、書店の店頭に並んだと思ったらすぐに姿を消し、図書館に収蔵されることもなく、いつのまにか忘れ去られてしまう本が少なからずある。そんな不遇な本----「廃本」をメインに取り扱うオンライン古本屋「杉並北尾堂」を営んでいるのが、フリーライターの北尾トロさんだ。
「僕にとって本というのは、もともとはひまつぶしの道具だったんですよ。小説のような王道を行く本にはあまり興味がなくて、僕が『廃本』と呼んでいるような、すごく偏った内容の本ばかり読んでいました。そのうち、そういった本がものすごくたまってきたので、どうやって処分しようかと考えたのが、そもそもの始まりでした」
「実は僕、街の古本屋があんまり好きじゃなかったんです。古本屋特有の暗くてぶすっとした雰囲気とか、売りたい本を持ち込んでも、買い叩かれるどころか、ろくに相手にもしてもらえなかったりとか‥‥。もちろん、感じのいい古本屋もあることは知ってましたけど、そういう嫌な対応のされ方をしたことが何度もあったので、古本屋には本を持って行きたくなかったんですよ。でも、だからといって捨てたくはないし‥‥。そう考えていたら、『だったら自分で売ればいいんだ』と思うようになったんです。僕が読み終えた本を、その本を必要としている別の誰かに受け渡して回し読みしてもらうような、そんな古本屋がオンラインでできないかと思ったんです。嫌いと言ってた古本屋に自分がなるというんだから、心のどこかでは、古本屋に魅力を感じていたのかもしれないですね」
こうして「杉並北尾堂」が産声を上げたのは、北尾さんが店のアイデアを思いついてから約半年後の1999年10月のこと。北尾さん独特の選択眼によるユニークな「廃本」の品揃えは、そういうちょっと変わった本を探し求めている人々の心のツボに、見事にハマるものだった。
「手持ちの本を処分してすっきりしたいというのが動機でしたから、最初はそんなに長く古本屋を続けるつもりはなかったんです。でも、やってみたら面白くて‥‥。買い取りやセドリ(古本屋などから本を仕入れ、利益を乗せて売ること)をしているうちに、減らすはずの本が逆に増えてきて(笑)。開店以来、本の置き場所と整理にはいつも困っています。今は2、3千冊くらいの在庫がありますね」
北尾さんが感じている、オンライン古本屋の醍醐味とは?
「好きな本を売って、お金をもらえて、しかもお客さんにも喜んでもらえる----そこですね。『何年も探していた本でした!』というような熱烈な感謝のメールが届いたりすると、やっぱり嬉しいです。あとは、やればやるほど商品知識が身に付いて目が肥えてくるので、年を取っても末永くやれるというのも、この商売のいいところだと思います。あと、実際に店舗を構えると、初期投資が必要だったり、店で長時間拘束されたりしますけど、オンラインならそういうリスクも少ないですから」
開店から5年が過ぎ、かつては数十サイトしかなかったオンライン古本屋も、今では数えきれないほどに増えてきた。そんな中で「杉並北尾堂」は、これから先、どんな方向を目指すのだろうか?
「ちょっとラインナップを整理して、マイナーチェンジをしたいとは思っています。サイトを枯らしてしまわないように、種を蒔いて育てていきたいですね。もともと、儲けてやろうと思ってやっている店じゃないんですよ。もちろん赤字になるのは嫌ですけど、僕にとっては、この店をやることによって得られる経験とか、人との繋がりの方が大事なんです。要は、いかに楽しむか、でしょうね。楽しもうとしていれば、ポイントは見えてくるものなんです」
そんな北尾さんは今、11月に渋谷パルコで開催される、あるイベントの準備に携わっている。「新世紀書店」と名付けられたこのプロジェクト、いったいどういったものなのだろう?
「これまで僕は、本屋というものについて、あまり深く考えたことがなかったんです。でもちょっと考えてみたら、書店業界って、年々衰退しているのに、本屋をやりたいという人は減っていない不思議な業界ですよね。今、本屋で本が売れない原因は、あまりにも画一的で面白くない本屋ばかりだからなんじゃないだろうか? だったら、これから先、どんなスタイルの本屋が出てくるかということを僕たちで考えて、そのコンセプトを展示してみよう。そういった試みが巷の本屋さんのヒントになってくれればいい、と思ったんです」
「そんな話を仲間内でしていたら、どんどんエスカレートして、もっと突拍子もないアイデアが欲しいということで、イベントのスタッフを一般の方から募集したんです。すぐに20人くらい集まりましたね。それ以来、みんなでしょっちゅうミーティングをやってアイデアを練っているんですが、その過程自体が、ものすごく楽しいんですよ」
「『新世紀書店』では、5種類くらいの本屋のスタイルを展示したいと思っています。どんな店かというと‥‥たとえば、本を売らない本屋(笑)。置いている本は非売品ばかりで、本を並べている棚や机を売る店を考えています。あとは、書棚作りをお客さんにやってもらう本屋。本を一冊買ったら、穴埋め用の本を別に選んで、棚の空いたスペースに置いてもらう。そこにその人のセンスが反映されるわけです。あとは、本嫌いの人のための本屋とか‥‥」
北尾さんたちの愉快なたくらみを、楽しみにして待つことにしよう。
(「Web Designing」2004年11月号)

