Works: 岩坂照之「こちら前田建設ファンタジー営業部」
前田建設の本社ロビーでは、4体の小さな人形が人々に愛嬌を振りまいていた。A部長、B主任、C主任、D職員。今やすっかり有名になった「前田建設ファンタジー営業部」のメンバーたちだ。
テレビアニメなどに登場する秘密基地のような空想上の建造物を、現実の世界で作るとしたらどうなるか? そんな素朴な疑問を本気で解決するためにファンタジー営業部は「設立」された。最初のプロジェクトは、マジンガーZの汚水処理場型地下格納庫。半年以上に及ぶ検討作業の末、72億円という工費と6年5カ月という工期を算出し、Web上で話題を集めたのは記憶に新しい。
ファンタジー営業部の生みの親である同社経営管理本部総合企画部主任の岩坂照之さんは、この企画のアイデアを思いついた時のことを次のように振り返る。
「あれは1999年のことになりますね。栃木県のツインリンクもてぎで開催された本田技研のイベントで、ASIMOの前の型のP3という2足歩行ロボットが一般公開されたのを、たまたま見に行ったことがあったんです。その時にP3が歩くのを見て、技術そのものにも感動したんですけど、それ以上に、周りにいた人たち----お子さんからお年寄りに至るまで----がワーワー言いながら手を叩いて喜んでいるのを見て、うらやましいというかくやしいというか、ちょっと愕然としてしまったんです。技術でここまで人を感動させられるのはすごいことだ、建設業でも、その技術を業界以外の人々に伝える方法はないだろうか、そんな風に思うようになったんです」
「最近はサブカルチャーブームで、ちょっと懐かし系のキャラクターなんかを企業PRに取り入れる風潮がありますよね。それで僕もある時、建設業をPRするのにいい方法はないかと考えてみたんです。アニメの主役とかを頼むとお金がかかるだろうな、脇役も同じ値段なのかな、もっと安くないとうちじゃ予算取れないし、だったら周りの基地とかなら安いのかな‥‥そこまで考えた瞬間、あのイベントで見たロボット=マジンガーZがパッと閃いて、だったらうちがその基地を作ればいいんだ、と思いついたんです。マンガの世界の基地の設計を前田建設が全力で検討して、それをWebで公開する。これは面白いんじゃないかと思いましたね」
それから岩坂さんは、現在ファンタジー営業部のメインライターを務めている同社土木本部土木設計部の野本康介さんとメールをやりとりしながら、このアイデアを胸の内で育み続けた。その後、現在の所属部署である総合企画部に異動した岩坂さんは、2002年8月、野本さんや同じ部署の広報グループの人々と共にこの企画を会社側にプレゼンする。
「その時の反応は‥‥あまりに斬新というかやったことのない企画だったので、何をしたいのかわかってもらえなかったですね。で、とりあえず仮のサイトを作ってみろと言われたんです。それからもう、休みの日も返上でみんな僕の家に集まって、マジンガーZのビデオを見まくって研究して(笑)。まずこういう切り口でアニメファンの心を捉えて、それからうちの施工技術を面白おかしくPRして、最後に見積りを出すところまでやる----という大体の形が見えるようなものを作ってみせて、それでOKをもらいました。ただ、僕らも会社に突拍子もないことをお願いしているのはわかってましたから、効果が出るまではボランティアとしてやるとか、一年経ってヒット数が向上しなければ打ち切るとか、そういうルールは設定しましたけど」
その後の交渉で、マジンガーZの版権を持つダイナミック企画や東映アニメーションからのキャラクター使用許諾も無事獲得。数カ月の準備作業を経て、2003年2月3日、ファンタジー営業部がスタートした。
「ファンタジー営業部をWeb上でどう見せるかについては、デザインしすぎることはやめよう、と決めていました。動画とかを使ってクールでカッコイイものにするのではなく、基本的にテキスト中心で、じっくり内容を読んで楽しめるものにしたかったんです。あの会話調の原稿を書くのって、時間がかかるんですよ。毎回、僕と野本の二人がかりで、1〜2週間はかかりますね。どこまで難しく書くか、どこまで柔らかく書くか、そのバランスにいつも苦労しています」
ファンタジー営業部で取り上げる題材の選定基準はどこにあるのだろうか?
「まず、ネット利用者の中心である30代半ばの男性に認知度の高い作品であること。それから、現在の前田建設の技術でギリギリ作れるかどうかというもので、通常の建設会社が絶対作らないようなもの、ということです。そうすると自然と絞り込まれてくるんですよ。あとはもちろん、自分たちが思い入れを持って取り組める作品であることも大事ですね」
読者の方からの反応は?
「ファンタジー営業部のサイトにはBBSは設置してないんですが、みなさん、ほんとにたくさんメールを送ってくださるんですよ。我々建設業界のお客様というのは役所や企業の方がほとんどですから、そういうところと全然関係のない若い女性の方とかからメールをいただくというのは本当にありがたいことです。ネットの効果というのはスゴいですね」
マジンガーZの地下格納庫のプロジェクトが終了した後、ファンタジー営業部は今、銀河鉄道999の発着用高架橋のプロジェクトに取り組んでいる。成果が出るのは今年の夏頃になりそうだ。
「一般の方からは、999の高架橋って簡単そうですねって言われるんですけど、実は、あれの方がはるかに難しいんですよ。でも、先日いい工法を見つけたので、なんとかなりそうです。楽しみにしていてください」
(「Web Designing」2004年2月号)

