昨日は、聖心女子大学で開催された、サティシュ・クマールさんの講演を聞きに行った。
サティシュ・クマールさんは、インドのラージャスターン州生まれの思想家。少年時代はジャイナ教の僧侶だったが、18歳の時、マハトマ・ガンジーの思想に共鳴して還俗し、ガンジー主義者の仲間たちとともにインドの土地改革運動に身を投じるようになる。核保有国に対して核兵器の放棄を訴えるため、インドからソ連、ヨーロッパ、そして米国に至る1万4000キロの道程を、無一文で、二年半の歳月をかけて歩く巡礼の旅を行ったこともあった。今は英国で、エコロジーをテーマにした雑誌「リサージェンス」の編集長を務めるかたわら、持続可能な社会を作り出す術を伝えるための教育機関「シューマッハー・カレッジ」を主宰している。
彼の著書「君あり、故に我あり
」は、ラダックで暮らしていた頃に何度も読む機会があって、いろいろ考えさせられることも多かった。そのサティシュさんの話を生で聞ける機会はめったにないので、とても楽しみにしていたのだ。
400人以上の人々が詰めかけたホールの壇上に登場したサティシュさんは、72歳とは思えないほどしゃんとした、健やかな印象の方。最初の一時間ほどの講演では、ずっと立ったままで話をされていた。通訳の必要がないほどわかりやすくてシンプルな英語で、言い淀むこともなく、淡々と語り続ける。穏やかなその一言々々に、とてつもない力がある。
ソイル(土)とソウル(心)とソサエティ(社会)。土(自然)との繋がりが人間の心を育み、健やかな心が社会をあるべき形へと変えていく。彼の言葉に、「〜しなければならない」という押し付けがましさは微塵もない。彼はただ、これまでの人生で培った経験を語っているだけだ。だから、どこにも無理をしているところがない。でも、その経験に裏打ちされた思索の奥深さには、計り知れないものがあった。
後半の質疑応答の時、「子供の頃、お母さんにどんなことを教わったのですか?」という質問に、サティシュさんは次のように答えた。「君あり、故に我あり
」の冒頭でも紹介されている、お母さんの言葉だ。
「子供の頃、家から農場までの道を母と一緒に歩いていた時、母はミツバチを見つけて、私にこう言いました。『ミツバチは私たちの先生なのよ。ミツバチは花から花へと飛び回り、少しずつ花の蜜を集めて回るけど、けっして花を痛めたりしない。花も、ミツバチがやってきて蜜を盗んだなんて文句を言ったりしない。ミツバチは花から蜜を得て、花はミツバチに授粉させてもらう。ミツバチは花がなければ自分が存在できないことを知っていて、花はミツバチがいなければ自分が存在できないことを知っているのよ』」
サティシュさんもすごいけれど、お母さんもすごい方だなあ、と思う。僕たちは、ミツバチや花のあり方に学ぶべきことがたくさんある。