ラダックに来て以来、いろんな料理を口にしましたが、中でも僕が一番好きなのは、トゥクパです。
一般的には汁物系料理をひっくるめてトゥクパと呼ぶらしいのですが、基本的にはチベット風のうどんです。街のチベタン食堂のメニューにはほぼ必ずトゥクパがありますが、既製品のだるだるに伸び切った麺やくせのあるスープが出てくることがほとんどで、僕はいまいち好きになれませんでした。
ところが、シャクティでのファームステイ中や、レーのゲストハウスでデチェンさんが作ってくれたトゥクパは、本当においしい。薄く延ばして手でちぎった麺を、羊肉と野菜を煮込んだスープで食べるだけなのですが、街のチベタン食堂のトゥクパとは比べものにならないくらいうまいのです。大鍋で煮込んだトゥクパを小鉢に取り分けて、みんなでハフハフ言いながら食べる楽しさも、味に貢献しているのかもしれません。
写真のトゥクパは、麺と羊肉と野菜だけのシンプルなものですが、麺に卵を練りこんだり、黒胡椒やドライチーズ、コリアンダーをスープに加えるといっそうおいしくなります。
先日、風の旅行社のガイドの飯田さんとチョグラムサルを訪れた時、ちょっと変わったものを食べました。
写真をご覧になっていただくとわかるように、トゥクパ(チベット風うどん)の上にモモ(チベット風餃子。皮は厚めで中身は羊肉や野菜など)がどーんと載っています。これはモモ・トゥクパ、ミックス・トゥクパなどと呼ばれているもので、ラダックのチベタン食堂ではたまに見かけるメニューです。普通、この両者が一緒くたになって出されることはありえないんですけどね。
このモモ・トゥクパを出してくれたウインドホース・レストランのご主人曰く「10年くらい前からあったのは覚えてるけど、それ以前のことはわからない」とのこと。飯田さんによると「こんなメニュー、ほかのチベット文化圏では見たことがない‥‥」そうです。
肝心の味についてですが、少なくともこの店で食べたモモ・トゥクパはとてもおいしかったです。普通のトゥクパは羊肉が数切れ載っているだけで、多すぎる麺と一緒に食べる時のペース配分が難しいのですが、モモ・トゥクパは具が豊富なので、気にせずガンガン食べることができます。さすがにボリュームはすごいですが。
この店での値段は45ルピー。ラダック名物モモ・トゥクパ、と呼べるでしょうか(笑)。
インドという国では、人前でおおっぴらに酒を飲むことは避けるという習慣があるため、ここラダックでも酒屋はごくわずかで、ビールが飲めるレストランも限られています。では、ラダッキは普段酒を飲まないのかというと、全然そんなことはありません。
ラダックでよく飲まれているのは、チャンという酒。バッレという高地性の麦を発酵させて作るどぶろくです。見た目は白く濁っていて、口に含むとちょっと酸味があって、なかなかうまい。そんなにアルコール度数が高くないので、クイクイ飲める感じかな。
ただ、チャンは酒屋やレストランなどでは売られておらず、人々が自宅で仕込んで作るものに限られています。民泊やホームステイの際に飲めるチャンスがあったらラッキーかも。
ちなみに今年の春、僕がファームステイで滞在したシャクティでは、畑仕事の合間に男も女もチャンをグイグイ飲んでおりました(笑)。
ラダックで食べられるチベット料理の中でも代表的なものの一つが、チベット風の蒸し餃子、モモです。ラダック語では「モクモク」と発音しますね。中身が肉なら「シェー・モクモク」、野菜なら「ツォドメ・モクモク」といった感じになります。
餃子と比べると、モモは皮が厚くてもっちりとしていて、食べごたえがあるのが特徴です。中身は羊肉か野菜で、食堂で注文すると、たいてい薬味に練り唐辛子がついてきます。町の食堂で食べるモモも悪くはないのですが、やっぱり、普通の家庭で食べられているモモの方が圧倒的においしい、というのが僕の結論です。
まず、中身が違う。以前、ロサルを迎えたシャクティで味わったチャンタン高原産のヤク肉を使ったモモはまあ別格として、普通の野菜で作る時も、キャベツ、ニンジン、タマネギ、グリーンピース、ジャガイモ、ホウレンソウ、マッシュルーム、ニンニク、ブラックペッパーなどなど、その時々のいろんな野菜を組み合わせて使い、そこにパニール(インドのチーズ)を刻んで混ぜ込んだりもします。次に違うのが薬味。トマトやタマネギ、唐辛子、コリアンダー、クルミなどをミックスしたサルサソースに近いものが出てきたら、「ラッキー」と思って間違いありません。蒸したてアツアツのモモを、ひんやりピリッとした薬味につけて食べると、これがまた格別なのです。モモ自体の大きさは、一口でぱくっと食べられるくらいの小ぶりなサイズの方が好みですね。
こういう味を日本で再現しようとすると、結構大変かもしれません。まず、皮に使ってる小麦粉からして違いそうですし‥‥。あー、日本でも食べたいなあ。
ラダックのローカル・フードでまだ紹介していないのは何だっけ‥‥と思っていたら、この間の夕食でスキウが出てきたので、紹介します。
スキウというのは、小麦粉を練ったものをシェルマカロニみたいな感じの団子にして、野菜や肉と一緒に煮込んだ料理です。味は家庭によってさまざまですが、ちょっととろみのある感じはシチューに似てます。そういえば名前も似てますね(笑)。町の食堂ではまずメニューにありませんが、田舎で民泊させてもらったりすると、かなりの高確率で出てきます。
スキウに限らず、モモやトゥクパなどのチベット料理は、ヘビーというか、食べるとおなかにずっしりたまります。地元の若い人たちはこういうローカル・フードを敬遠して、今やすっかりラダック人の主食となったライス&サブジー(野菜カレー)&ダール(豆カレー)といったインド本土から伝わってきた料理を好んでいるようです(スパイスはだいぶ控えめですが)。僕はどっちも好きですが、このラダックという苛酷な土地で生き抜いていくためには、ずっしり腹にたまるローカル・フードの方が適してるのかなあという気がしないでもありません。
意外に思われるかもしれませんが、実はラダックではパンもよく食卓に上ります。ラダック語では小麦粉を練って焼いたパンの類を「タギ」と呼んでいます。たとえば、インドから伝わってきたチャパティは「タギ・シャモ」(シャモは「薄い」という意味)と呼んだりしていますね。
外国人からラダッキ・ブレッドなどと呼ばれているラダック独特のパンは、「タギ・カンビル」と呼ばれています。小麦粉にイーストを加えて練って寝かせたものを、丸めて伸ばしてフライパンで焼き、最後にちょっと直火で焙ります。するとぷっくりUFOみたいな形に膨らんで、うまそうなタギ・カンビルが焼き上がるのです。熱々のところをさっくり割ると、中が中空になっているので、そこにバターやジャムを塗っていただきます。
うちのゲストハウスでは、タギ・カンビル2枚とオムレツとチャイというのが朝食の定番です。何回食べたか思い出せないくらい口にしているので、最近では何だか当たり前のように思えてきました(笑)。日中営業しているレストランではまずメニューにないので、朝食つきのゲストハウスや民泊の際にこのタギ・カンビルが出てきたら、ラッキーだと思います。
ちなみに、インドで広く売られている断面積の小さな食パンもラダックでは食べられていますが、これはタギではなく英語的に「ブレド」と呼ばれています。
そういえば、まだこれを紹介してなかったな‥‥と思ってたら、昨夜デチェンさんがタイムリーに作ってくれたので、写真とともにご紹介します。
これはティモと呼ばれる料理で、小麦粉を練ってクロワッサンそっくりな形にして蒸し上げた蒸しパンです。野菜などを煮込んだものと一緒にいただきます。これが素朴なことこの上ない味で、なかなかいけるのです。
察しのいい方はお分かりかと思いますが、トゥクパにしてもモモにしてもスキウにしても、ラダックで食べられている伝統的な料理はだいたい原材料が同じです。苛酷な環境の中で手に入る限られた食材を、さまざまな形に調理して楽しむ工夫がこらされているのがよくわかります。
ちなみに写真の後方にぼんやり赤く見えているのは、トマト、ニンジン、ネギ、コリアンダーにぱらっと塩をかけただけのサラダ。何の手も加えてないのにものすごくうまいです。トマト以外は宿の庭の菜園で穫れた野菜なのですが、やっぱり材料がいいと味も違いますね。
