それでも僕が旅に出る理由

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5月18日(水)夜に代官山蔦屋書店で開催した、写真家の三井昌志さんとのスライドトークイベント「ラダックと渋イケメン 〜それでも僕たちが旅に出る理由〜」。正確な数字はまだこちらに届いていないのですが、会場の後方の席までぎっしり埋まるほど大勢の方々がご来場くださって、終了後のサイン会でも長い列を作ってくださいました。本当にありがとうございました。

三井さんが小気味いいテンポのトークとともに見せてくれた渋イケメンたちの写真の素晴らしさはもう圧巻の一言で、そうした知られざる人々との出会いと、その時の自らの心の動きを三井さんが大切にされていることが伝わってきて、僕自身もとても楽しませていただきました。新鮮な出会いを求めて常に旅を続ける三井さんにも、芯の部分には常にぶれずに大切にし続けている視点がある。僕はラダックという一つの場所(といってもだいぶ広いですが)にこだわりながらも、そこから人と自然とのありようという、より広い視点を見出そうともしている。二人のそういう違いがあらためて浮き彫りになったのも興味深かったです。

今回のイベントのタイトルに使った「それでも僕たちが旅に出る理由」という文言は、僕が考えました。自分はなぜ旅に出るのか。なぜ旅にこだわるのか。正直言って、自分でもよくわかりません。ただ、旅の中でも自分にとって一番大切にしたいと思える旅は、必ず何らかの形で、旅の本にしたいと思っています。なぜ旅の本を作り続けたいと思うのか、それにははっきりとした理由があります。

このイベントの会場となった代官山蔦屋書店でかつて旅行書のコンシェルジュを務め、自身もトラベルライターだった森本剛史さんは、2014年の夏の終わりに亡くなられました。その年の暮れ、お別れの会が代官山蔦屋書店のすぐ近くで催された時、森本さんの書斎の様子を撮った映像が会場で上映されました。映し出されたのは、森本さんが次に書こうとしていた本の構想をびっしりメモしたノート。最後の最後まで、森本さんは旅の本を作り続けようとしていたのだと知りました。

その時、ぽん、と、バトンを渡されたような気がしました。「ヤマモト君、次はどんな本を作るの? いいのができたら、持ってきてよ」と、いつものように、軽い調子で言われながら。

世の中には、「自分の旅の本を作りたい」と思っている人はものすごく多いと思います。でも、みんながみんな、それを叶えられるわけではありません。能力云々以前に、仕事や家庭、健康の問題など、いろんな事情であきらめなければならない人もたくさんいます。ましてや、作り続けるのはもっと大変です。そんな中、僕はたまたま運のいい巡り合わせで、旅の本を作ることのできる境遇にいさせてもらっている。それでも苦労してばかりですが、やってやれなくはない立場です。

だったら、やれるだけやってみよう。森本さんやいろんな人たちから受け取った(と僕が勝手に思い込んでいる)無数のバトンを抱えて、自分にとって大切だと思える旅を本という形にする仕事を、続けられるだけ続けよう。走って走り続けて、いつか力尽きて、別の誰かにバトンを渡すことは絶対間違いないけれど、その時が来るまでは、全力で。

一冊の本が、誰かを旅に連れ出すこともある。旅に出られない人の心に、寄り添うこともある。そういう旅の本を作ることを、僕はこれからもずっと追い求めていきたいと思っています。

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